交通事故の示談交渉で損しないために|人身事故と物損事故の違いと重要ポイント
交通事故に遭った際、加害者側と話し合って解決することを「示談(じだん)」と呼びます。
示談では、その事故が「人身事故」として扱われるのか、あるいは「物損事故(警察上は「物件事故」と呼ばれます)」として扱われるのかによって、受け取れる賠償金の項目や手続きの進め方は大きく異なります。
もし適切な判断ができないと、本来受け取れるはずの賠償を受けられなくなる可能性があります。
本記事では、人身事故と物損事故の違いを踏まえ、示談交渉で損をしないためのポイントを解説します。
1 交通事故の示談とは?基本的な考え方
交通事故における「示談」とは、事故の当事者同士が損害賠償の金額について話し合い、互いに譲歩して解決することをいいます。示談が成立すると「和解」としての効力が生じ、示談書に記載された内容以外の請求権を放棄する「清算条項」が含まれるのが一般的です。
多くの場合、加害者が加入している任意保険会社の担当者が「示談代行」として交渉窓口になりますが、加害者本人が直接交渉するケースもあります。示談は紛争を早期に解決できるメリットがある反面、一度成立すると後から覆すことは非常に難しいため、内容をよく確認した上で進めることが大切です。
「交通事故の示談の流れ」についてはこちらもご参照ください。
2 人身事故と物損事故の定義の違い
交通事故は、被害の対象によって大きく「人身事故」と「物損事故」の2つに分類されます。
(1)定義の違い
まずはそれぞれの定義の違いについて押さえておきましょう。
- 人身事故:交通事故によって、人がけがをしたり亡くなったりした場合を指します。
- 物損事故(物件事故):自動車や建物、持ち物など「物」だけが壊れ、人の死傷を伴わない場合を指します。
(2)誰が判断するのか
物損事故か人身事故かは、最終的に警察が事故の内容に応じて処理区分を決定します。
事故現場に警察が到着すると、現場の状況や関係者の証言をもとに調査を行い、どちらとして処理するかが決定されます。被害者や加害者が直接決めることはできません。
ただし、血痕が残るなど明らかにけががわかる事故を除いては、被害者が医師の作成した「診断書」を警察に提出し、けがをしたと届け出たかどうかが判断の中心になるのが実情です。
この届け出を行わない限り、警察上は「物件事故」として扱われます。そのため、事故後に体の異変を感じた場合は、早めに医療機関を受診して診断書を取得し、警察に届け出ることが重要です。
3 示談における人身事故と物損事故の違い
人身事故と物損事故では、法律の適用や賠償の範囲が根本的に異なります。
(1)慰謝料の有無
最も大きな違いのひとつが「慰謝料」です。慰謝料は精神的苦痛に対する賠償であるため、原則として人身事故でしか認められません。
傷害による損害は「治療関係費・休業損害・慰謝料」で構成されますが、物損事故ではこれらの項目は原則として発生しません。
(2)請求できる損害の違い
人身事故と物損事故では、請求できる損害について、主に以下のような違いがあります。
| 種別 | 請求できる損害の主な項目 |
|---|---|
| 人身事故 | 慰謝料、治療費、入院費、通院交通費、休業損害(仕事を休んだことによる収入減)、後遺障害慰謝料、逸失利益(将来の収入減少分)など |
| 物損事故 | 車両修理費・買い替え費用(時価額)、レッカー代・代車費用、積載物の損害、評価損(修理後も下がった車の価値)など |
(3)保険の違い
強制加入の「自賠責保険」は、人身事故の被害者を救済することを目的とした保険です。そのため、物損事故には自賠責保険が適用されず、加害者の任意保険(対物賠償保険)または加害者の自己負担による支払いとなります。
また、人身事故では自賠責法第3条により、加害者側が無過失であることなどを証明しない限り責任を負う(いわゆる運行供用者責任)ことになります。これにより被害者の立証負担が軽減されるという点も、重要な違いのひとつです。
(4)示談までの流れの違い
物損の損害額は、修理の見積もりなどが出れば比較的早い段階で算定できるため、事故後すぐに示談交渉を始めることが可能です。
一方、人身損害の場合は、けがが完治するか、あるいはこれ以上治療しても改善しない状態(症状固定)になるまで、正確な損害額が確定しません。そのため、治療が終わってから示談交渉を開始するのが一般的です。
4 物損事故で処理すると損をするケース
本当はけがをしているのに「軽微な事故だから」と物損事故として処理してしまうと、以下のようなリスクがあります。
- 自賠責保険が使えない
自賠責保険は人身事故届がある場合に支払われるのが原則です。「人身事故証明書入手不能理由書」を提出することで例外的に対応できる場合もありますが、手続きが複雑になります。 - 清算条項による権利放棄
物損だけで早急に示談を成立させ、「今後は一切請求しない」という清算条項を含む示談書に署名してしまうと、後から痛みが出ても賠償を請求できなくなる危険があります。 - 診断書の提出が遅れることによる不利益
交通事故でけがをした場合、医師が作成した診断書を警察に提出して初めて、人身事故として正式に扱われます。この診断書は、事故によるけがの内容や治療経過を示すだけでなく、治療費・休業損害・慰謝料などの賠償額を算定するための重要な資料となります。しかし、物損事故として処理されたままにしていると、診断書の提出が遅れることになります。その結果、事故とけがとの因果関係が争われやすくなり、適切な賠償を受けられなくなるおそれがあります。
少しでもけがをしている場合には、後から取り返しのつかない事態を防ぐためにも、早めに医療機関を受診した上で人身事故の届出を行うことが重要です。
5 人身事故として扱うべき判断基準
事故直後は興奮していて痛みを感じなくても、数日後に痛みが出ることは珍しくありません。次のいずれかに当てはまる場合は、人身事故として処理することを検討してください。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 体に少しでも違和感や痛みがある場合 | すぐに整形外科などの医療機関を受診し、診断書を取得して警察へ提出すべきです。 |
| 身体の機能を補う物が壊れた場合 | たとえば「眼鏡」などが壊れた場合、自賠責保険では身体の機能を補完するものとして、物損ではなく人身損害として取り扱われるルールがあります。 |
| 治療が必要な場合 | 治療費や通院のための交通費が発生するのであれば、人身事故として処理しなければ適切な補償を受けられない可能性が高まります。 |
6 示談交渉でよくあるトラブル
示談交渉ではしばしば以下のようなトラブルが発生します。交渉が難航している場合はひとりで抱え込まず、専門家への相談を検討してください。
- 過失割合の対立
事故の責任がどちらに何割あるかをめぐる争いです。保険会社が被害者側の過失を大きく主張してくることがあり、交渉が平行線をたどる場合は刑事記録を証拠として活用したり、民事訴訟で決着をつけることもあります。 - 保険会社の提示額への不満
保険会社が提示する損害賠償額が妥当かどうか、専門知識がないと判断が難しい場面があります。納得できない場合は弁護士に相談することで、より適切な賠償額を交渉できる可能性があります。 - 治療費の打ち切りを迫られる
けがが完治していないにもかかわらず、保険会社から治療費の打ち切りを求められるケースがあります。むちうちであれば「事故から3か月経過したので」といった形で、一般的な治療期間を根拠に打ち切りを迫られることが典型例です。しかし、必要な治療期間は人によって異なり、本来は担当医の判断が尊重されるべきです。保険会社の言いなりになって治療を中断してしまうと、その後の治療費は自己負担となるだけでなく、適切な慰謝料を請求できなくなるおそれがあります。
「交通事故の示談交渉では何を話し合うのか」もご参照ください。
7 「示談交渉」についてよくある質問(Q&A)
ここでは、示談交渉についてよくいただく質問にお答えします。
加害者が任意保険に入っていない場合はどうすればいいですか?
人身事故であれば、被害者が加害者の加入する自賠責保険に対して直接賠償を請求できる「被害者請求」という制度を利用できます。
自賠責保険はすべての車に加入が義務付けられているため、加害者が任意保険未加入でも、国が定めた限度額(死亡3,000万円、傷害120万円、後遺障害最大4,000万円)までは補償を受けられます。
一方、物損については自賠責の対象外であるため、加害者本人に直接請求するしかありません。相手が支払いに応じない場合は、訴訟などの法的措置を検討する必要があります。
示談交渉はいつ始めるのがベストですか?
損害の全容が確定した時点です。物損については修理費等の見積もりが確定した時点、人身については治療が終了した(または症状固定した)時点が適切です。
示談が成立すると「今後一切の請求を行わない」という清算条項が盛り込まれるのが一般的です。そのため、示談後に新たな後遺症が判明したり治療が長引いたりしても、原則として追加の賠償請求はできません。
加害者側や保険会社から「早く解決したい」と急かされることがありますが、損害額が確定する前に示談交渉を始めることは避けるべきです。
一度決まった示談をやり直すことはできますか?
原則としてできません。示談書には通常、追加請求をしないという「清算条項」が含まれるためです。
ただし、示談当時に予想できなかった重大な後遺症が後から判明した場合など、例外的に追加賠償が認められるケースもありますが、ハードルは非常に高いのが現実です。慎重に判断した上で示談することが何より重要です。
8 弁護士に依頼するメリット
交通事故の被害に遭ったときに弁護士に依頼する最大のメリットは、保険会社が用いる算定基準よりも高い「裁判所基準(弁護士基準)」での交渉が可能になる点です。慰謝料や逸失利益などの賠償額は、どの基準を用いるかによって大きく異なり、被害者が保険会社と直接交渉した場合、低い基準のまま示談が進んでしまうリスクがあります。
また、過失割合の争いへの対応、診断書・各種証明書といった資料の収集・整理、後遺障害等級認定の申請サポートなど、複雑な手続きを一括して任せられるため、被害者の精神的・時間的な負担も大幅に軽減されます。
なお、自動車保険などに付帯されている「弁護士費用特約」が利用できる場合は、弁護士費用を保険会社が負担するため、実質的な自己負担なく依頼できるケースが多くあります。まずは加入している保険を確認してみることをおすすめします。
詳しくは「交通事故被害を弁護士に相談・依頼するメリット」をご参照ください。
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