交通事故の後遺障害等級認定で損しないための事故直後の行動と治療のポイント

交通事故に遭ってしまったら、誰もがパニックになってしまうものです。

しかし、事故直後の行動が、将来受け取れる賠償金、特に「後遺障害等級認定」に大きく影響します。実際に、事故直後の受診が遅れた、通院を自己判断で中断した、診断書の内容を確認しなかったといった理由で、本来認定されるはずの後遺障害等級が否定されてしまうケースも数多く見られます。

この記事では、後遺障害等級認定で損をしないために、事故直後から治療期間中、そして症状固定に至るまでの各段階で何をすべきか、そのポイントを分かりやすく解説します。

目次

1. 交通事故直後の行動が後遺障害等級認定の成否を分ける理由

後遺障害等級認定では、事故とけが、残存症状との因果関係を客観的に示すことが不可欠です。

「事故と傷害の因果関係」の証明がすべて

後遺障害の補償を受けるためには、その症状が「交通事故によって引き起こされた」という因果関係を客観的に証明する必要があります。

たとえば、事故から初診までの期間が大きく空いていたり、通院を自己判断で長期間中断してしまったりすると、「その症状は事故とは別の原因ではないか?」と疑われ、因果関係を認めてもらえなくなる可能性があります。

事故直後の行動は、この因果関係を証明するための最初の、そして最も重要なアクションです。

事故直後の行動で変わる証拠保全の重要性

事故直後の対応は、因果関係を証明するための「証拠」を確保するという意味でも極めて重要です。

警察に届け出をしなければ、後の手続きに不可欠な「交通事故証明書」が発行されません。

適切な初期行動をとることで、自分に有利な証拠をしっかりと保全することができるのです。

後遺障害等級認定がもたらす賠償金への影響(未来の生活補償)

交通事故によるけがの治療を続けても、残念ながら完治せず、痛みや機能障害などの症状が残ってしまうことがあります。

このような症状を「後遺症」といい、その症状が自賠責保険の定める等級(第1級から第14級)に該当すると認定されることを「後遺障害等級認定」といいます。

この等級が認定されると、治療期間中の損害(治療費や休業損害など)とは別に、将来にわたる損害、つまり「未来の生活補償」として以下の賠償金が支払われます。

  • 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことによる精神的な苦痛に対する補償
  • 逸失利益:後遺障害によって働きづらくなり、将来得られるはずだった収入が減少してしまうことに対する補償

認定される等級によって、これらの賠償金額は大きく変動します。したがって、適切な等級認定を受けることは、事故後の生活を再建するために非常に重要なのです。

2. 事故発生直後:証拠を確保し、適切な対応をとる初期行動

事故直後は冷静でいるのが難しいかもしれませんが、将来の自分のために、いくつか必ずやるべきことがあります。

警察への連絡と実況見分への立ち会いの重要性

どのような小さな事故であっても、必ず警察に連絡してください。警察に届け出をしないと、先ほど述べた「交通事故証明書」が発行されません。

この証明書は、保険金の請求など、今後の手続きに不可欠です。警察官が到着したら、事故の状況をできるだけ正確に説明し、実況見分に立ち会いましょう。

相手方情報の正確な記録(氏名、連絡先、保険会社)

交通事故に遭った直後は、以下の情報を確認し、記録しておくことが重要です。

  • 運転者の氏名、住所、電話番号
  • 加害車両の持ち主の住所、氏名、電話番号(運転者と所有者が異なる場合)
  • 加害者が加入している自動車保険の情報
  • 任意保険の保険会社名、担当者名、連絡先
  • 自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の会社名、証明書番号

これらの情報は、後の損害賠償請求の交渉相手を特定し、手続きをスムーズに進めるために不可欠です。特に、相手が任意保険に加入している場合、その保険会社名や担当者、連絡先は、今後の治療費の支払いや示談交渉の窓口となるため、必ず確認しておきましょう。

現場の記録(写真・動画):「車の損傷」と「負傷部位」の撮影

事故現場や車両の状況を写真や動画で記録しておくことは、事故の状況を客観的に証明するための極めて重要な証拠となります。写真は、事故現場に立ち会わなかった裁判官などに状況を正確に認識させるための最良の手段の一つです。

車の損傷の撮影

事故車両の写真は、事故の態様や衝撃の程度を推認したり、車両の破損状況を明らかにして修理費や評価損の相当性を判断したりするための有益な資料となります。車両全体や損傷個所、衝突状況について撮影しておくとよいでしょう。

負傷部位の撮影

ご自身のけがの状況についても、写真を撮っておくことが有効です。警察の実況見分においても「傷者の状況」は撮影対象の一つとされています。また、車両に付着した血痕なども証拠となり得ます。

痛みがなくても救急車を呼ぶ、またはすぐに病院へ向かうべき理由

事故直後は興奮状態にあるため、痛みを感じにくいことがあります。「大したことはない」と自己判断せず、たとえ目に見えるけががなくても、すぐに病院で医師の診断を受けてください。

事故から時間が経ってから病院に行くと、その症状と事故との因果関係を証明するのが難しくなる不利な扱いを受ける可能性があります。後から重い症状が出てくるケースも少なくないため、速やかな受診が鉄則です。

むちうちは24〜48時間後に症状が強く出る

交通事故によるむちうちの症状は、事故直後には痛みがないか、あっても軽いことが一般的です。しかし、事故の翌日から首や背中の痛み、首を伸ばした際の痛みの増強、頭痛といった症状が現れることがあります。

そのため、事故直後に痛みがなくても速やかに医療機関を受診することが重要です。

 

 むちうち(頚椎捻挫)/交通事故の怪我・症状別解説で「むちうち」について説明していますのでご参照ください。

 

事故直後に我慢してしまった場合の不利な扱い

交通事故後、痛みや症状を我慢してすぐに医療機関を受診しないと、損害賠償請求で不利に扱われるおそれがあります。事故から時間が経って受診した場合、保険会社から「事故との因果関係がない」と主張されやすくなるためです。

一度因果関係を争われると、被害者側でその立証を求められ、カルテや問診内容の一貫性などを細かく確認しなければならず、手続きが煩雑になります。そのため、事故直後は症状が軽くても、早めに医療機関を受診することが重要です。

3. 治療期間中:後遺障害等級認定を見据えた「正しい通院」と「記録の残し方」

適切な後遺障害等級認定を受けるためには、治療期間中の過ごし方も非常に重要です。ポイントは「継続」と「正確な記録」です。

治療の継続と中断を避けること:通院頻度と「一貫性」の重要性

医師の指示に従い、定期的に通院を続けることが大切です。

仕事や家事が忙しいからといって自己判断で通院を中断したり、通院間隔が不規則になったりすると、「もう治ったのではないか」「症状が軽いのではないか」と判断され、後の等級認定で不利になることがあります。

治療の「一貫性」は、症状が継続していることの有力な証拠となります。

医師に伝えるべき症状:正確な診断と診断書作成のための重要なコミュニケーション

診察の際には、痛み、しびれ、動かしにくさなど、自覚している症状を具体的かつ正確に医師に伝えましょう。

「これくらいは言わなくてもいいか」と遠慮する必要はありません。あなたが伝えた症状はカルテに記録され、それが後に作成される「後遺障害診断書」の重要な基礎情報となります。

ささいな変化や、日常生活で困っていることなども含めて、しっかりと伝えることが、適切な診断と記録につながります。

自己で症状を記録する「症状日記」の作成(客観的証拠の補完)

交通事故の症状は、事故直後が最も重く、その後は改善または一定の状態で推移するのが一般的です。症状の経過を日々記録し、診察時に一貫して医師へ伝えることで、事故後から症状が継続していることがカルテや診断書に反映されやすくなります。

また、痛みやしびれを具体的かつ継続的に伝えることで、MRIなどの検査につながり、後遺障害認定に重要な他覚的所見を得るきっかけになります。

症状日記は、軽い症状が初期のカルテに残っていない場合でも、事故直後から症状があったことを補足する資料となり、不十分な医療記録を補う有効な手段です。

むやみに治療費打ち切りに応じないための知識

治療を始めて数か月経つと、加害者側の保険会社から「そろそろ症状固定ですので、治療費の支払いを打ち切ります」という連絡が来ることがあります。

しかし、治療をいつ終えるか(症状固定とするか)を医学的に判断するのは主治医です。保険会社の判断は、法的な意味での症状固定とは異なる場合があります。

まだ治療によって症状の改善が見られるのであれば、安易に治療費の打ち切りに応じる必要はありません。このような場合は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

4. 「症状固定」の判断と適切な「後遺障害診断書」を得るための行動

後遺障害等級認定の手続きにおいて、「症状固定」と「後遺障害診断書」は最も重要なキーワードです。

「症状固定」とは何か? 誰が、いつ判断するのか?

「症状固定」とは、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めなくなった状態を指す、損害賠償額を算定するための法律上の概念です。完全に治った状態を意味するわけではありません。この時点で残っている症状が「後遺症」となります。

症状固定の時期は、基本的には治療経過を見てきた主治医が医学的な観点から判断します。しかし、最終的には、医師の診断書やこれまでの治療経過、けがの内容など様々な事情を考慮して、損害保険料率算出機構(調査事務所)や裁判所が法的な観点から判断します。

保険会社が一方的に症状固定日を決めることはできません。

後遺障害診断書作成の依頼:医師に伝えるべき具体的な要望

症状固定の診断を受けたら、主治医に「後遺障害診断書」の作成を依頼します。これは、後遺障害等級認定を申請するための最も重要な書類です。作成を依頼する際は、以下の点を意識して医師とコミュニケーションをとることが望ましいです。

  • 交通事故の後遺障害認定のための診断書であることを明確に伝える。
  • 自覚症状(痛み、しびれ、可動域の制限など)を改めて具体的に伝える。
  • 日常生活や仕事でどのような支障が出ているかを説明する。

医師によっては後遺障害診断書の作成に不慣れな場合もあるため、弁護士が記載例などを用意してサポートすることも有効です。

診断書に記載されるべき重要な項目(自覚症状、他覚所見など)

後遺障害診断書には、あなたの症状を客観的に証明するための重要な項目がいくつも含まれています。提出前に、以下の点がきちんと記載されているか確認しましょう。

  • 傷病名:事故によるけがの正式名称
  • 自覚症状:被害者自身が感じている症状(例:首の痛み、右手のしびれ、めまいなど)
  • 他覚所見:医師による診察や検査によって客観的に確認できる異常所見(例:MRI画像でのヘルニア所見、神経学的検査の結果、関節の可動域制限の角度など)
  • 症状固定日:いつの時点で症状固定と判断されたか

特に、自覚症状を裏付ける「他覚所見」は、等級認定において極めて重要視されます。

適切な検査の実施と記録(MRI、神経学的検査など)

他覚所見を明らかにするためには、適切な検査を受けることが不可欠です。むち打ちなどで神経症状が疑われる場合は、レントゲンだけでなくMRI検査を受け、神経が圧迫されている様子などを画像で確認することが重要です。

また、しびれや麻痺の範囲を調べるための神経学的検査なども、症状を客観的に示すための有力な証拠となります。これらの検査記録は、後遺障害診断書とあわせて提出します。

症状固定を早く決められそうになったらどうする?

保険会社から治療費の打ち切りを告げられ、早く症状固定とするよう促されることがあります。

しかし、まだ治療によって症状が改善している実感がある場合や、主治医が治療の継続が必要と判断している場合は、安易に同意すべきではありません。

症状固定後の治療費は原則として自己負担となるため、症状固定の時期は慎重に判断する必要があります。保険会社との交渉が難しいと感じたら、すぐに弁護士に相談しましょう。

主治医が“仕事に支障がないなら症状固定でいいよ”と言ってきた場合の注意

医師はあくまで治療の専門家であり、損害賠償の専門家ではありません。医師が言う「症状固定」は、純粋に医学的な観点からの「これ以上の改善は見込めない」という意味合いが強いことがあります。

労災保険の考え方では、就労が可能な状態ではなくても症状固定と判断されることがあるように、「仕事ができるか否か」と「法的な症状固定」は必ずしも一致しません。

たとえ仕事に復帰できていても、痛みが残っていて生活に支障がある場合は、その旨をしっかり伝え、安易に症状固定の判断に同意しないことが重要です。

労災や健保を使っている場合の症状固定との関係

交通事故の等級認定は、原則として労働者災害補償保険(労災保険)の障害等級認定基準に準じて行われます。

そのため、労災保険や健康保険(健保)を利用して治療を受けている場合でも、症状固定の考え方は基本的に共通しており、後遺障害認定手続きにおいて重要な意味を持ちます。

労災保険を使っている場合、症状固定は「治ゆ」と呼ばれます。「治ゆ」と判断されると、治療費(療養給付)の支給が終わり、もし後遺障害が残っていれば、その障害の等級に応じた給付(障害給付)に切り替わります。

また、加害者側の保険会社が治療費の支払いを打ち切った後、健康保険を使って治療を続けることがあります。支払い方法が変わるだけで、症状固定の考え方自体は同じです。

いつ症状固定とするかは、支払い方法にかかわらず、治療の効果などを基に医師が医学的に判断します。

5. 後遺障害等級認定を有利に進めるための弁護士への相談タイミング

後遺障害等級認定の手続きは非常に専門的で、被害者ご自身で全て対応するのは困難な場合が少なくありません。

保険会社とのやり取り、医師とのコミュニケーション、複雑な書類の準備など、専門家である弁護士に任せることで、より有利な結果を得られる可能性が高まります。

交通事故の被害に遭われたら、できるだけ早い段階で一度弁護士にご相談ください。

事故直後から弁護士が介入することで、後遺障害診断書の記載内容の確認・補足資料の準備、被害者請求による等級認定申請、非該当となった場合の異議申立てまで一貫した対応が可能になります。

詳しくは、交通事故被害を弁護士に相談・依頼するメリットをご一読ください。

 

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