交通事故における保険会社の役割とは?慰謝料・損害賠償・示談交渉の仕組みを弁護士が解説
交通事故に遭われたとき、多くの場合、相手方の保険会社の担当者とやり取りをすることになります。
しかし、保険会社がどのような立場で、どのような役割を担っているのかを正確に理解している方は少ないのではないでしょうか。
このコラムでは、交通事故における保険会社の役割、慰謝料や損害賠償の仕組み、そして示談交渉の注意点について、弁護士がわかりやすく解説します。
保険会社の提示に安易に同意してしまう前に、知っておくべき重要なポイントを押さえていきましょう。
1.交通事故における保険会社の「役割」と立ち位置
保険会社は交通事故の示談交渉において重要な役割を果たしますが、その立場を誤解したまま交渉を進めてしまうと、適切な賠償を受けられないリスクがあります。
加害者側保険会社は「加害者の代理人」である
損害賠償の請求相手は法律上、加害者本人ですが、実務では加害者が加入する任意保険会社と交渉するのが一般的です。任意保険会社は契約に基づいて、加害者に代わって示談交渉や賠償金の支払いを行います。
つまり、保険会社は加害者の代理人として機能しているのです。丁寧な対応を受けても、決して被害者の味方ではないという認識を持つことが重要です。
自賠責保険(強制)と任意保険の役割の違い
自動車保険には、大きく分けて「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があり、日本の自動車保険はこの二本立て構造であることが特徴です。
自賠責保険(強制保険)
すべての自動車に加入が義務付けられている強制保険です。
主な目的は、交通事故による被害者の救済であり、人身損害(けがや死亡)に対する最低限の補償を確保する役割を担います。
物損(車の修理代など)は補償の対象外で、人身損害にも支払限度額が定められています(例:死亡の場合3,000万円)。
任意保険
加入は任意ですが、多くのドライバーが加入しています。
自賠責保険だけではカバーしきれない損害を補う「上乗せ保険」としての性格を持ちます。自賠責保険の限度額を超える人身損害や、自賠責では対象外の物損事故にも対応します。
被害者は、任意保険会社に対して自賠責保険分も含めて一括で損害賠償を請求できる「一括払請求」が可能なため、請求手続きが簡略化されるメリットがあります。
保険会社は「公平な第三者」ではないという前提知識
保険会社の担当者は丁寧に対応してくれることが多いものの、公平な第三者ではありません。加害者側の保険会社は加害者の代理人として交渉に臨み、支払う保険金をできるだけ抑えたいという動機が働きます。
2.保険会社が提示する「慰謝料」が低い理由と3つの基準
保険会社から提示される慰謝料の額が思ったより低いと感じる方は少なくありません。その理由は、慰謝料の算定に用いられる基準にあります。
自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の大きな差
交通事故の損害額、特に慰謝料を算定するには、主に以下の3つの基準が存在します。
自賠責基準
自賠責保険から支払われる保険金額を計算するための基準です。
法律で定められた強制保険であり、被害者への最低限の補償を目的としているため、3つの基準の中では最も金額が低くなります。
任意保険基準
各任意保険会社が独自に設定している内部的な支払基準です。
かつては業界で統一された基準がありましたが、現在は各社が個別に定めています。一般的に、自賠責基準よりは高いものの、後述する弁護士基準よりは低い金額となる傾向があります。
弁護士基準(裁判基準)
過去の裁判例(判例)を基に作られた基準で、「赤い本」と呼ばれる書籍などにまとめられています。
裁判になった場合に認められる可能性が高い金額の基準であり、3つの基準の中では最も高額になるのが通常です。
一般的に、賠償額は「弁護士基準>任意保険基準>自賠責基準」の順に高額になります。保険会社が最初に提示する金額は、自賠責基準や任意保険基準に基づいて計算されていることが多いため、弁護士基準と比べると低くなるのです。
なぜ「これが相場です」という言葉を鵜呑みにしてはいけないのか
保険会社の担当者から「これが一般的な相場です」という説明を受けることがありますが、この言葉をそのまま信じてはいけません。保険会社が言う相場とは、自社が定めた任意保険基準のことであり、法的な拘束力は一切ありません。
適正な慰謝料を受け取るための見極めポイント
保険会社から提示された慰謝料が適正かどうかを見極めるには、以下3つのポイントを意識することが重要です。
①どの基準で計算されているかを確認する
提示された金額が、自賠責基準なのか、任意保険基準なのかを確認しましょう。もし弁護士基準とかけ離れている場合は、増額交渉の余地があります。
②弁護士基準での金額を知る
弁護士に相談し、ご自身のケースが弁護士基準(裁判基準)ではいくらになるのかを把握することが最も確実な方法です。
③安易に示談に応じない
保険会社は早期解決を促してくることがありますが、提示額に納得できない場合は、その場で安易に示談書にサインしないことが大切です。
被害者の利益を最大化するためには、裁判も辞さない姿勢で、弁護士基準を前提として交渉に臨むことが有効です。
3.損害賠償の項目と「争点」になりやすい費用
ここでは、損害賠償の主な項目と、特に保険会社と争いになりやすい費用について解説します。
詳しく知りたい方は、「交通事故被害者が請求できる賠償金の種類・内訳」も併せてご覧ください。
治療費・休業損害・逸失利益の基本構造
損害賠償の主な項目には以下のようなものがあります。
- 治療関係費
病院での治療費、薬代、入院費、通院交通費などが含まれます。- 休業損害
事故によるけがが原因で仕事を休まざるを得なくなり、収入が減少した場合の補償です。- 逸失利益
事故が原因で後遺障害が残ったり、死亡したりしたことによって、将来得られるはずだった収入が失われたことに対する補償です。- 慰謝料
事故によって受けた精神的苦痛に対する補償です。入通院慰謝料や後遺障害慰謝料などがあります。
これらの損害項目を積み上げて、損害賠償金の総額が計算されます。
保険会社が「支払いを渋りやすい」項目(整骨院通院や主婦の休業損害など)
損害賠償の項目の中には、保険会社がその必要性や金額について争ってくる、いわゆる「支払いを渋りやすい」項目が存在します。
たとえば、整骨院・接骨院の施術費について、医師の指示なく通院した場合、「治療の必要性・相当性がない」として支払いを拒否されたり、一部しか認められなかったりすることがあります。
また、修理期間中の代車費用についても、過失割合や代車のクラス(車格)、使用期間の相当性を理由に、全額の支払いを拒否されることがあります。
これらの項目については、専門的な知識がなければ保険会社の主張に反論することは難しいため、注意が必要です。
医師の診断書や通院頻度が賠償額に与える影響
医師の診断書は、事故によるけがを証明する最も重要な証拠です。事故直後に必ず病院へ行き、診断書を取得しましょう。
入通院慰謝料は治療期間や実治療日数に基づいて算定されるため、通院の継続と頻度も賠償額に直結します。治療の必要性を示すためにも、医師の指示に従い、適切な頻度で通院を続けることが重要です。
さらに、治療を続けても完治せず後遺症が残ってしまった場合、「後遺障害等級」の認定を受けることで後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できます。この等級認定において、医師が作成する「後遺障害診断書」の内容は極めて重要な役割を果たします。
4.知っておきたい「示談交渉」の流れと注意点
治療が終了し、損害額が確定すると、保険会社との示談交渉が本格的に始まります。示談は一度成立すると覆すことができないため、慎重に進める必要があります。
示談交渉については、「交通事故に遭ったら?弁護士に相談してから解決までの流れ」もご覧ください。
示談とは「一度成立したらやり直しができない契約」
示談とは、当事者双方が話し合い、損害賠償の金額や支払方法について合意することです。法的には「和解契約」にあたり、一度示談書にサインすると、原則として内容を覆したり、追加で賠償金を請求したりすることはできません。
そのため、すべての損害が確定し、提示内容に完全に納得できるまで、安易に示談に応じるべきではありません。
保険会社が早期解決(示談)を急ぐ裏事情
保険会社が「早く示談しませんか」と交渉を急かしてくることがあります。
これは被害者のためだけではなく、保険会社側の事情も関係しています。治療が長引いたり、後遺障害が認定されたりすると、支払う賠償金の総額が増える可能性があるため、低い金額で早期に示談を成立させたいという意図がある場合があります。
示談書にサインする前にチェックすべき項目リスト
示談書(または免責証書)にサインする前には、必ず以下の項目をチェックしてください。
- 賠償金の総額と内訳
提示された金額の総額だけでなく、治療費、休業損害、慰謝料など、各項目の金額が明記され、納得できる内容になっているか。- 過失割合
自分と相手の過失割合が何対何になっているか。この割合に納得できるか。- 支払期日と支払方法
いつ、どのように賠償金が支払われるかが明確に記載されているか。- 清算条項
「本件事故に関する紛争はすべて解決し、今後一切の請求を行わない」といった趣旨の条項(清算条項)が含まれているか。この条項があると、後からの追加請求はできなくなります。
少しでも疑問や不安な点があれば、サインする前に必ず専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
5.保険会社とのやり取りでよくあるトラブルと対処法
保険会社との交渉では、様々なトラブルが発生することがあります。代表的な事例と対処法を解説します。
そもそも交通事故の示談交渉で何を話し合うの?と疑問をお持ちの方は、こちらもご覧ください。
「治療費の打ち切り」を宣告された時の対応
事故から一定期間が経過すると、保険会社から「治療費の支払いを打ち切ります」と一方的に通告されることがあります。
しかし、治療を続ける必要があるかどうかを判断するのは、保険会社ではなく医師です。もし医師がまだ治療が必要だと判断しているのであれば、治療を続けるべきです。保険会社に治療継続の必要性を伝え、交渉しましょう。
納得いかない「過失割合」を提示されたら
過失割合は賠償額全体に大きな影響を与える重要な要素です。提示された過失割合に納得がいかない場合は、安易に同意すべきではありません。
ドライブレコーダーの映像や実況見分調書などの客観的な証拠を集め、過去の裁判例に基づいて反論する必要があります。
担当者の対応が威圧的・不誠実な場合の防衛策
あってはならないことですが、保険会社の担当者の中には、高圧的な態度を取ったり、不誠実な対応をしたりする人がいるのも事実です。
このような担当者と直接やり取りを続けることは、精神的に大きな負担となります。最善の防衛策は、交渉の窓口を弁護士に一本化することです。弁護士が間に入ることで、不当な要求を退け、冷静かつ対等な立場で交渉を進めることができます。
6.弁護士介入で変わる「賠償金」と「精神的負担」
保険会社との交渉に行き詰まりを感じたとき、弁護士に依頼することで状況が大きく変わる可能性があります。
詳しくは、「交通事故被害を弁護士に相談・依頼するメリット」もご参照ください。
弁護士基準(裁判基準)の適用による増額の仕組み
弁護士が介入する最大のメリットは、最も高額な弁護士基準を用いて交渉できる点です。弁護士が代理人となり、裁判も辞さないという姿勢で交渉に臨むことで、保険会社も譲歩せざるを得なくなり、裁判基準に近い金額での解決が期待できます。
窓口を弁護士に一本化するメリット(ストレスの軽減)
心身ともに辛い状況の中で、保険会社との交渉を行うことは大きな精神的ストレスとなります。弁護士に依頼すれば、保険会社とのすべてのやり取りを弁護士が代行し、治療に専念することができます。
「弁護士費用特約」があれば自己負担ゼロで依頼可能
ご自身やご家族が加入している自動車保険に「弁護士費用特約」が付いていれば、多くの場合、自己負担なしで弁護士に依頼することができます。
弁護士費用特約は、弁護士への相談料や依頼費用を保険会社が負担してくれる制度です(通常、上限額300万円程度)。この特約を使っても、翌年以降の保険料が上がることはありません。まずはご自身の保険契約内容を確認してみてください。
7.保険会社任せにせず、早めに相談すべきケース
以下のような状況に当てはまる方は、保険会社任せにせず、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
- 保険会社との電話が怖い、ストレスを感じる
- 専門用語が多く、何を言っているのか、何を言えばいいのかわからない
- 治療を続けても症状が改善せず、後遺障害が残りそうだと感じている
- 保険会社から示談を急かされている
- 保険会社から提示された賠償額や過失割合に少しでも違和感がある
示談書にサインしてしまうと、後から慰謝料や後遺障害について請求することは原則としてできなくなります。
静岡県で交通事故の被害に遭い、保険会社とのやり取りに納得がいかない方は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。当事務所では、交通事故被害に関するご相談は初回45分無料で承っております。 提示された金額が妥当かどうかを確認するだけでも構いません。今後の見通しや最善の解決策を一緒に考えさせていただきます。
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