交通事故の示談交渉では何を話し合うのか

交通事故の後、保険会社とのやりとりで「示談交渉」という言葉を聞くことがあります。これは、加害者側と被害者側が話し合いによって賠償額や責任割合を決め、裁判をせずに解決を目指す大切なプロセスです。

ただし、内容をよく確認せずに示談に応じてしまうと、不利な条件で決まってしまうこともあります。

この記事では、示談交渉で何を話し合うのか、交渉を成功させるための注意点、そして弁護士に依頼するメリットまで、初めての方にもわかりやすくご紹介します。

交通事故の示談交渉とは?始めるタイミングと成立までの期間

交通事故の示談交渉とは、被害者と加害者(またはその保険会社)が、過失割合や損害賠償額について話し合い、裁判を避けて解決を目指す手続きです。

一度示談が成立すると、その内容は原則として後から変更できません。そのため、提示された金額や条件に納得できない場合は、即決せず、慎重に検討することが重要です。

示談交渉を始めるタイミング

示談交渉は、事故による損害額がある程度明らかになった段階で始まります。主なタイミングは以下のとおりです。

  • 物損事故:修理費などが確定した時点
  • 人身事故:ケガが完治した、または医師から「症状固定」と診断された時点

通常は、加害者側の保険会社から示談案が提示され、それをベースに交渉が始まります。ただし、保険会社は自社の基準に基づいて賠償額を計算しているため、その金額が適正かどうかを冷静に見極めることが不可欠です。

示談成立までにかかる期間

示談が成立するまでの期間は、事故の内容や争点の有無によって異なります。以下は一般的な目安です。

事故類型示談成立までの目安
物損事故発生から2~3か月程度
後遺障害のない人身事故完治・症状固定後から約半年
後遺障害のある人身事故後遺障害等級認定後から半年~1年程度
死亡事故必要書類がそろってから半年~1年程度

ただし、治療が長引いたり、過失割合をめぐって争いがある場合は、1年以上かかることも珍しくありません。

もし早期解決を目指すのであれば、交通事故に強い弁護士に相談することで、スムーズな示談交渉が期待できます。

示談交渉では何を話し合うのか?示談交渉で決めるべき重要事項

交通事故の示談交渉では、主に損害賠償金(示談金)と過失割合について協議します。この2点は示談の中でも特に重要で、交渉の結果によって最終的に受け取れる金額が大きく左右されます。

損害賠償金(示談金)

示談金とは、交通事故によって被った損害を金銭で補償するものです。交渉では、以下のような項目ごとに金額を確定していきます。

項目内容
治療関係費診察料・手術費・投薬費など、治療にかかった医療費
通院交通費通院にかかった交通費(電車代・ガソリン代など)
休業損害仕事を休んだことで減った収入の補償
逸失利益後遺障害や死亡により将来的に得られなくなった収入
入通院慰謝料入通院を強いられた精神的苦痛への補償
後遺障害慰謝料後遺症が残った精神的苦痛への補償
死亡慰謝料死亡により発生する遺族への精神的苦痛の補償
葬儀費用葬儀や埋葬にかかった実費の補償
車両修理費車の修理や買い替えにかかる費用

損害賠償額は、事故の態様・ケガの程度・収入状況など個別の事情によって大きく異なります。「保険会社の提示額=正当な金額」ではないため、提示された内容が適正かどうか、慎重に確認しましょう。

過失割合

過失割合とは、交通事故の責任を被害者と加害者がどの程度の割合で負担するかを示すものです。

たとえば、過失割合が加害者7:被害者3の場合、被害者の請求できる賠償額は損害額の70%になります。

【具体例】

損害額:100万円
過失割合:加害者7:被害者3
被害者が受け取れる金額:70万円

過失割合は示談金の金額に直接影響するため、相手方の主張をそのまま受け入れるのは危険です。事故当時の状況を示すドライブレコーダー映像や目撃証言などの証拠を活用し、妥当な割合を主張することが重要です。

示談交渉を成功させるための注意点

交通事故の示談交渉は、一度合意すると原則として撤回ややり直しができない重要なプロセスです。

ここでは、示談交渉をスムーズかつ納得のいく形で進めるために、押さえておくべき5つのポイントを解説します。

① 損害賠償請求権には時効がある

示談が成立しないまま放置していると、損害賠償請求権が時効で消滅するおそれがあります。

主な時効期間は以下のとおりです。

請求の種類時効の起算点と期間
物的損害(物損)事故翌日から3年
人身傷害(後遺障害なし)事故日または症状固定日の翌日から5年
人身傷害(後遺障害あり)症状固定日の翌日から5年
死亡事故死亡日の翌日から5年
加害者不明の事故事故日の翌日から20年

交渉が長引いて時効が近づく場合には、時効を中断する法的手続きが必要です。ただし、これには専門的な知識が求められるため、弁護士に相談するのが安全です。

② 示談後は撤回・やり直しができない

示談は法的拘束力を持つ契約であり、示談書に署名・押印すると、原則としてその内容を変更することはできません。

少しでも不安や疑問がある場合は、すぐにサインせず、十分に内容を確認してから合意することが大切です。できれば、専門家の意見を聞いてから決断しましょう。

③ 可能な限り「人身事故」として扱う

事故直後にケガの症状が出ていない場合でも、あとから痛みが出てくることは珍しくありません。

物損事故のままだと実況見分調書が作成されず、過失割合の争いなどで不利になるリスクがあります。

そのため、ケガがある場合はできるだけ早く病院を受診し、診断書を警察に提出して「人身事故」へ切り替える手続きを行いましょう。

④ 保険会社の提示額を鵜呑みにしない

保険会社が提示する示談金は、たいてい任意保険基準や自賠責基準に基づいて計算されており、裁判で認められる水準より低くなる傾向があります。

交通事故の賠償基準は主に以下の3つです。

  • 自賠責基準:最低限の補償。国の定める基準。
  • 任意保険基準:保険会社独自の基準。やや低め。
  • 裁判所基準(弁護士基準):過去の裁判例に基づく。最も高額になる可能性あり。

提示された金額が妥当かどうかを判断するためにも、裁判所基準(弁護士基準)との比較が重要です。

⑤ 示談書は細部まで確認する

示談の内容は、すべて示談書という書面に明記されます。署名前に、次のポイントをしっかり確認しましょう。

  • 事故の日時・場所、当事者情報に誤りがないか
  • 過失割合が納得できる内容か
  • 賠償金の内訳や金額に漏れ・誤りがないか
  • 後遺障害等級が正しく反映されているか
  • 支払期日や方法が明記されているか
  • 「精算条項」が含まれているか(=追加請求ができなくなる条項)
  • 後遺障害が後から認定された場合の扱い(保留条項の有無)

示談書は細かく確認することが重要です。少しでも不安がある場合は、弁護士に内容をチェックしてもらうことを強くおすすめします。

弁護士が示談交渉を代行するメリット

交通事故の示談交渉は、損害賠償額や過失割合の確定において極めて重要です。しかし、保険会社は自社の支払額を抑える目的で、被害者にとって必ずしも有利とはいえない条件を提示してくるケースもあります。

弁護士に示談交渉を依頼することで、以下のようなメリットが得られます。

適正な賠償額を獲得しやすくなる

弁護士は、裁判所の判断基準に基づく「裁判所基準(弁護士基準)」を用いて賠償額を算出し、保険会社と対等に交渉を行います。これにより、慰謝料や休業損害、逸失利益などの金額が増額される可能性が高まります。

交渉に伴う精神的・時間的負担を軽減できる

保険会社との交渉や書類対応は、専門的な知識を必要とするため、多くの被害者にとって大きな負担となります。弁護士に依頼すれば、代理人としてすべての対応を任せることができ、精神的・時間的な負担を大きく減らすことが可能です。

不利な条件での合意を避けられる

提示された示談案の中には、被害者にとって不利な内容や不十分な記載が含まれている場合があります。弁護士はその妥当性を的確に判断し、必要に応じて修正や再交渉を行います。結果として、納得のいく条件で示談を成立させやすくなります。

訴訟への移行がスムーズに行える

交渉での合意に至らなかった場合でも、弁護士がそのまま訴訟代理人として対応することが可能です。新たに手続きを始める必要がなく、スムーズに訴訟へ移行できます。

詳しくは:[交通事故被害を弁護士に相談・依頼するメリット]をご覧ください。

まとめ|示談交渉は慎重に、弁護士のサポートを受けて進めるのが安心

交通事故の示談交渉では、損害賠償額と過失割合という大きな争点を話し合います。示談は一度成立すると原則やり直しができず、不利な条件を受け入れてしまうと将来の生活に大きな影響を及ぼします。

保険会社の提示額をそのまま受け入れるのではなく、裁判所基準と比較し、必要に応じて交通事故に詳しい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。納得できる結果を得るためにも、弁護士と一緒に慎重に進めていきましょう。

この記事の監修者プロフィール

弁護士 林 克樹(はやし かつき)
林総合法律事務所 代表弁護士
(静岡県弁護士会所属)
被害者側の交通事故案件を中心に、年間約100件の損害賠償請求を手掛ける。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加を含む)や、後遺障害等級認定の獲得、保険会社との示談交渉など、被害者の正当な権利を実現するための対応に注力している。
経歴

埼玉県出身。
上智大学経済学部卒業。
静岡大学大学院法務研究科修了。

保有資格

弁護士(静岡県弁護士会所属:登録番号49112)、税理士、社会保険労務士

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