高次脳機能障害/交通事故の怪我・症状別解説

交通事故による後遺障害の中でも「高次脳機能障害」は、被害者や家族に大きな影響を及ぼすもののひとつです。外見からは分かりにくく、周囲から理解されにくい障害であるため、賠償請求や後遺障害等級認定においても慎重な対応が求められます。

この記事では、高次脳機能障害の基礎知識、主な症状、等級認定のポイント、認定後に得られる賠償金の目安について解説します。

高次脳機能障害とは何か?交通事故との関連性と基礎知識

高次脳機能障害とは、交通事故などによる頭部外傷で脳に器質的損傷が生じ、思考・記憶・言語・感情などの機能に障害が残る状態を指します。

交通事故によって生じる高次脳機能障害は、車両同士の衝突や転倒などで頭部に強い衝撃が加わり、脳が頭蓋骨の内側にぶつかって広範囲に損傷する「びまん性脳損傷」や、頭蓋内出血による脳の圧迫、あるいは脳の一部分のみが損傷する「局所性脳損傷」などが代表的です。外見に大きな外傷がなくても、事故後しばらくしてから物忘れや感情の変化などの症状が現れることも少なくありません。

この障害の特徴は「外からは分かりにくい」という点です。手足の麻痺のように明確な変化ではなく、物忘れ、集中力の低下、感情のコントロールの難しさといった形で現れるため、周囲から「性格が変わった」「怠けている」と誤解されることもあります。本人に自覚が乏しいケースもあり、障害の存在に気づくのが遅れることも少なくありません。

一度損傷した脳機能は医学的に完全な回復が難しいとされ、障害は長期にわたり続くと考える必要があります。高次脳機能障害が残ると、就労や学業の継続が困難になったり、家族の介護負担が増大したりするなど、生活全般に深刻な影響を与えます。

高次脳機能障害の主な症状

交通事故による高次脳機能障害は、見た目に異常がなくても、日常生活に大きな支障をきたすのが特徴です。代表的な症状を7つに分けてご紹介します。

① 記憶障害

新しい情報が覚えられない、覚えたことを忘れるといった症状。約束を忘れる、同じ質問を繰り返すなど、生活に直接影響します。

② 注意障害

集中できない、気が散りやすい状態。作業中のミスが増えたり、複数の作業を同時にこなせなくなったりします。

③ 遂行機能障害

物事を計画・実行する力が低下します。段取りが立てられない、指示がないと行動できないといった困難が生じます。

④ 社会的行動障害

感情の制御が難しくなり、怒りっぽくなる、無気力になるなどの対人トラブルが発生します。金銭感覚の変化や依存傾向が出ることも。

⑤ 言語障害(失語症)

言葉が出てこない、相手の話が理解できない、読み書きに支障が出るなど、コミュニケーションが困難になります。

⑥ 行動障害(失行症)

以前は自然にできた動作が困難になります。服の着脱や歯磨きなど、日常動作に支障が出ます。

⑦ 失認症

見たり聞いたりした情報をうまく認識できなくなります。知人の顔がわからない、よく知っている道で迷うなどの症状が見られます。

高次脳機能障害での後遺障害等級認定のポイント

交通事故で高次脳機能障害が残った場合、その障害が「後遺障害等級」に認定されるかどうかは、賠償金に大きく関わります。

後遺障害等級とは、自賠責保険が定める制度で、後遺症の程度に応じて1級から14級に分類されます。

認定される可能性のある後遺障害等級

高次脳機能障害は、脳の損傷が原因であることから、自賠責保険では「神経系統の機能または精神に障害を残したもの」として評価されます。主な該当等級は以下のとおりです。

  • 1級1号:常に介護を要する重度の障害
  • 2級1号:随時介護を要する障害
  • 3級3号:終身にわたって労務に服することができないもの
  • 5級2号:特に軽易な労務以外に従事できないもの
  • 7級4号:軽易な労務以外には従事できないもの
  • 9級10号:従事できる労務が相当程度に制限されるもの

症状が軽度の場合は、12級や14級などの神経症状として判断されることもあります。

認定のために必要な証拠

高次脳機能障害の等級認定では、以下の資料が重要視されます。

  • CT・MRIなどの画像所見:脳の器質的損傷が確認できること
  • 事故直後の意識障害の記録:昏睡や健忘の期間が一定以上あったか
  • 神経心理学的検査の結果:WAIS、WMS、TMTなどの客観的データ
  • 日常生活状況報告書:家族や近親者による行動記録、受傷前との比較

これらの証拠が不十分だと、実際に支障があっても軽い等級や非該当になる可能性があります。弁護士が資料を確認・補足することで、適切な等級が認定される可能性が高まります。

交通事故被害で高次脳機能障害を負った場合の後遺障害等級と賠償金額

高次脳機能障害が後遺障害として認定されると、主に以下のような損害賠償が請求可能になります。

  • 後遺障害慰謝料
  • 後遺障害逸失利益
  • 将来介護費・住宅改造費・車両改造費(重度の場合)

それぞれについて見ていきましょう。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、障害が残ったことによる精神的苦痛への補償です。慰謝料には「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判所基準(弁護士基準)」の3種類があり、このうち裁判所基準は、裁判例をもとにした最も高額な基準です。弁護士が介入した場合に適用され、適正な補償を得やすくなります。

金額は等級によって異なり、裁判所基準による相場は以下のとおりです。

  • 1級:2800万円
  • 2級:2370万円
  • 3級:1990万円
  • 5級:1400万円
  • 7級:1000万円
  • 9級:690万円
  • 12級:290万円
  • 14級:110万円

後遺障害逸失利益

逸失利益とは、後遺障害がなければ本来得られたはずの収入が失われたことへの補償です。一般的には以下の計算式で算出されます。

基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数(喪失期間に応じた割引率)

例えば、働き盛りの世代が重度の高次脳機能障害で労働能力を失った場合、逸失利益は数千万円から数億円に及ぶこともあります。

その他(将来介護費・住宅改造費など)

後遺障害の重さによっては、以下のような費用も賠償対象になります。

将来介護費

常時または随時の介護が必要な場合、その介護にかかる費用が賠償対象となります。職業介護人を雇う場合の実費、家族が介護する場合でも一定額が評価されることがあります。

住宅改造費

生活に支障が出るため、自宅に手すりやスロープを設置する、浴室やトイレを改造するなどの費用が補償される場合があります。

車両改造費

車椅子対応車両や手動運転装置付きの車両が必要となる場合、その費用が認められることがあります。

これらは被害者の生活の質を維持するうえで不可欠な補償であり、具体的な必要性を立証することで賠償金額に加算される可能性があります。

まとめ|早期の対応が、将来の補償につながります

高次脳機能障害は、外見からは分かりにくく、本人や家族だけで正確に主張するのは難しい障害です。しかし、後遺障害等級の違いによって、補償額が数百万円以上変わることもあります。

事故後に脳にダメージを受けた疑いがある場合は、できるだけ早く医師の診断を受け、弁護士へ相談することが重要です。専門家のサポートを得ることで、適正な等級認定と正当な補償を実現できる可能性が高まります。

交通事故は被害者と家族の人生に大きな影響を与えます。後悔しないためにも、早期に専門家へ相談し、生活の再建に向けた第一歩を踏み出しましょう。

この記事の監修者プロフィール

弁護士 林 克樹(はやし かつき)
林総合法律事務所 代表弁護士
(静岡県弁護士会所属)
被害者側の交通事故案件を中心に、年間約100件の損害賠償請求を手掛ける。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加を含む)や、後遺障害等級認定の獲得、保険会社との示談交渉など、被害者の正当な権利を実現するための対応に注力している。
経歴

埼玉県出身。
上智大学経済学部卒業。
静岡大学大学院法務研究科修了。

保有資格

弁護士(静岡県弁護士会所属:登録番号49112)、税理士、社会保険労務士

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