むちうち(頚椎捻挫)/交通事故の怪我・症状別解説
交通事故による怪我の中でも最も多いのが「むちうち(頚椎捻挫)」です。首の痛みや肩こりだけでなく、頭痛・めまい・しびれなど幅広い症状を伴うことがあり、事故直後に症状が出ないケースも少なくありません。そのため、早期の診察と継続的な治療が重要です。
また、後遺症が残った場合には、後遺障害等級の認定によって賠償額が大きく変わります。
この記事では、むちうちの基礎知識や症状、受診の注意点、等級認定のポイント、認定された場合の損害賠償について解説します。
むちうち(頚椎捻挫)とは?交通事故で最も多い怪我の基礎知識
交通事故による怪我の中でも、むちうちは発生件数が多く、多くの被害者が経験する代表的な症状です。ここでは、その仕組みや特徴的な症状について解説します。
むちうちの定義
むちうち(頚椎捻挫)は、交通事故などで首に強い衝撃が加わり、首の捻挫や軟部組織が損傷した状態を指します。追突事故では体が前方に押し出され、頭が遅れてしなることで鞭を振るような動きとなり、この名前がつきました。
医学的には「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」と診断されるのが一般的です。骨折のようにレントゲンで異常が明確に確認できないことも多く、診断や評価には慎重さが求められます。
むちうちの主な症状
むちうちで生じる症状は幅広く、事故直後にすぐ現れるとは限りません。典型的には以下のような症状がみられます。
- 首や肩、背中の痛み・こり
- 頭痛やめまい、吐き気
- 耳鳴りや視覚障害(目のかすみなど)
- 手や腕、足のしびれ・感覚異常
- 握力低下や全身の倦怠感
これらの症状は、首周囲の筋肉や靭帯の損傷だけでなく、頭部から背骨にかけて走る神経が圧迫・損傷されることでも引き起こされます。そのため単なる「首の痛み」と軽視せず、神経症状の有無にも注意が必要です。
さらに注意すべき点は、こうした症状が事故直後ではなく、時間が経ってから出てくる場合が多いことです。そのため、次に「事故直後に症状が出ない場合の注意点」を確認しておくことが大切です。
事故直後に症状が出ない場合の注意点
むちうちは、事故直後にすぐ症状が出るとは限らず、数時間から数日後に痛みやしびれがあらわれることも多い怪我です。しかし、症状が軽いからといって放置したり、病院受診を先延ばしにしてしまうと、治療の遅れだけでなく、後の補償面で大きな不利益を招くおそれがあります。
交通事故で首に強い衝撃を受けた場合は、自覚症状の有無にかかわらず、できるだけ早く病院を受診することが大切です。頭を打っている場合や体を動かすのが不安な場合には救急搬送を検討すべきですし、救急要請が不要に思える場合でも、当日中あるいは翌日中には診察を受けておくのが望ましいでしょう。万一、事故直後に受診できなかった場合でも、痛みや違和感が出た時点ですぐに受診することが重要です。
もし事故から受診までの期間が長引いてしまうと、「その怪我は交通事故が原因ではない」と因果関係を否定されるリスクが高まります。特に自賠責保険では、事故から2週間〜1か月以上経過して初めて受診した場合、事故との関連性を認めてもらえないことが多く、その結果、治療費や交通費、休業損害、慰謝料といった賠償を受けられなくなるおそれがあります。
仮に因果関係を否定されなかったとしても、事故直後に受診していないことで「大した怪我ではない」と判断され、補償額が低く見積もられる危険もあります。むちうちは時間差で症状が出ることが多い怪我だからこそ、事故直後に受診し、事故との関係を記録に残しておくことが、ご自身の健康を守り、適切な補償を受けるために欠かせません。
むちうち(頚椎捻挫)での等級認定のポイント
交通事故で後遺症が残ってしまった場合、その程度を公的に判断するための仕組みが「後遺障害等級認定」です。自賠責保険では1級から14級までの等級が定められており、どの等級に該当するかによって受けられる賠償金額が大きく変わってきます。
むちうちは骨折のようにレントゲンで明確な異常が出ないケースが多いため、等級認定が特に難しいとされる怪我です。実際に後遺障害等級に認定される割合は全体のごく一部にとどまっており、認定の可否は「どのように治療を続け、どのような証拠を残すか」に左右されます。
むちうちで後遺障害等級の認定を受けるためには、通院中から次のような点に注意して行動することが大切です。
① 通院を自己判断で中断しない
むちうちは数か月以上の通院が必要になることも多く、通院が途切れてしまうと「後遺症といえるほどの症状ではない」と判断されるおそれがあります。完治したと思って自己判断で中断すると、後に症状が再発しても因果関係を疑われてしまいます。
② 症状を具体的に医師に伝える
「首が痛い」「しびれる」といった訴えだけでなく、症状の強さ・頻度・持続時間や、日常生活や仕事にどのような支障が出ているのかまで詳細に医師に伝えることが重要です。症状が事故後から一貫して続いていることを診断書に反映してもらうことが、認定の大きなポイントになります。
③ 後遺障害診断書を必ず確認する
後遺障害等級の申請に欠かせないのが医師の後遺障害診断書です。記載漏れや誤りがあると、本来認められるはずの症状が「非該当」とされることもあります。必要な検査(MRIや神経学的検査など)を受け、その結果が正しく記載されているかを確認しましょう。
交通事故被害でむちうち(頚椎捻挫)を負った場合に可能性のある後遺障害等級と賠償金額
むちうちは画像検査で異常が出にくく、後遺障害等級の認定が難しいといわれています。しかし、認定されると賠償金額は大きく変わり、慰謝料や逸失利益といった将来に関わる補償を受けられる可能性があります。
ここでは、むちうちで認められる等級と、それに基づく損害賠償について解説します。
むちうちで認められる可能性のある後遺障害等級
交通事故によるむちうちで多く認定されるのは14級9号(局部に神経症状を残すもの)で、症状が強い場合にはまれに12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)が認められます。
両者を分けるポイントは他覚的所見の有無です。
12級13号
MRI画像や神経学的検査で痛み・しびれが客観的に確認できる場合に認定されます。件数は少ないものの、所見と症状が一致していれば十分認定の可能性があります。
14級9号
画像で所見がなくても、事故の衝撃や通院状況などから認められることがあります。5か月以上の継続的な通院や整形外科でのリハビリが目安とされ、MRI画像を残しておくことも有用です。
後遺障害が認定された場合に請求できる損害項目
後遺障害等級が認定されると、通常の治療費や入通院慰謝料とは別に、次の2つを追加で請求できます。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償
- 後遺障害逸失利益:後遺障害によって将来の収入が減少する分に対する賠償
いずれも賠償額の増加に直結する重要な項目です。
後遺障害慰謝料
慰謝料の金額は「自賠責基準」「任意保険会社基準」「裁判所基準」の3つがありますが、裁判基準が最も高額です。
- 14級の場合:自賠責基準=32万円/裁判所基準=110万円
- 12級の場合:自賠責基準=94万円/裁判所基準=290万円
等級の違いや基準の選択によって大きな差が出ることがわかります。特に弁護士が介入した場合には裁判所基準で請求できるため、賠償額を大きく伸ばせる可能性があります。
後遺障害逸失利益
逸失利益とは、後遺障害によって将来得られるはずの収入が減少することに対する賠償です。計算式は次のとおりです。
逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
- 労働能力喪失率:12級=14%、14級=5%
- 労働能力喪失期間:12級=10年、14級=5年(一般的な目安)
例として、年収500万円の方がむちうちで後遺障害を負った場合、自賠責基準・裁判基準での計算は以下のとおりです。
- 14級の場合:自賠責基準=約43万円/裁判基準=約114万円
- 12級の場合:自賠責基準=約130万円/裁判基準=約597万円
むちうちの後遺障害は認定が難しい分、認定の有無で賠償額が大きく変わります。適切な通院・証拠の収集とあわせて、早い段階で専門家に相談することが、正当な補償を受けるための重要なポイントです。
まとめ|むちうちは軽視せず、早期の受診と相談を
むちうち(頚椎捻挫)は交通事故で最も多い怪我の一つですが、首の痛みや肩こりだけでなく、神経症状や生活に支障を及ぼす後遺症につながることもあります。事故直後に症状が出ない場合も多いため、早めの受診と継続的な通院が不可欠です。
後遺障害等級の認定を受けられるかどうかは、治療経過や医師の診断書の内容に大きく左右されます。認定の有無によって、慰謝料や逸失利益といった賠償額が大きく変わるため、適切な証拠を残すことが重要です。
「むちうちだから大丈夫」と軽く考えず、事故後は速やかに医師へ、そして必要に応じて弁護士へ相談することで、健康と適正な補償の双方を守ることにつながります。
