骨折の後遺障害/交通事故の怪我・症状別解説
交通事故によるけがの中でも、骨折は特に多い重大な外傷です。治療で回復する場合も多いですが、骨の癒合不全や関節・神経への影響により、痛み・しびれ・可動域制限などの後遺障害が残ることがあります。
後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益など高額の賠償を受けられる一方で、認定の有無や等級によって賠償額は大きく変わります。そのため、事故直後からの医師への申告や画像検査の記録が極めて重要です。
この記事では、交通事故による骨折で生じやすい後遺障害の種類と認定のポイント、等級ごとの賠償金額の目安について、弁護士がわかりやすく解説します。
骨折の後遺障害とは?交通事故との関連性と基礎知識
骨折は交通事故で特に多いけがの一つで、医学的には骨の連続性が絶たれた状態を指し、交通事故によるものは外傷性骨折に分類されます。
その形態はさまざまで、皮膚が損傷し外部と交通している「開放骨折」、損傷を伴わない「閉鎖骨折」、骨の一部がつながったままの「不完全骨折」、完全に断裂する「完全骨折」、さらに骨が細かく砕ける「粉砕骨折」などに分けられます。同じ腕の骨折でも、上腕骨、橈骨、尺骨といった部位によって治療や予後は大きく変わります。
「骨折の後遺障害」とは、治療を尽くしても骨が完全には回復せず、体に不具合が残ってしまった状態を指します。例えば、関節の動きが制限される、骨が変形したまま癒合する、神経の障害によってしびれや痛みが続く、といったケースです。これらは日常生活や労働に支障を及ぼし、損害賠償請求の対象となり得ます。
事故直後に強い痛みや腫れがなくても、後に変形や可動域制限が明らかになることがあります。早期に画像検査を受け、骨折の有無を正確に把握しておくことが将来の後遺障害認定の裏付けになります。
骨折が完治しない場合に生じる主な後遺障害の症状
交通事故による骨折は、多くの場合は治癒します。しかし、治ったとしても関節の動きが元どおりにならなかったり、痛みやしびれが残ってしまうことがあります。
ここでは、交通事故の骨折によって生じやすい後遺障害の代表例を解説します。
骨折後の痛み
治療が終了しても、慢性的な痛みが残ることがあります。特に以下のようなケースでは後遺障害が問題となりやすいです。
関節内骨折による痛み
手首やひざ、足首などの関節は、骨と骨が直接かみ合う部分のため、骨折による影響が出やすい部位です。わずかなズレでも強い痛みが生じたり、動かしにくくなったり、関節軟骨を損傷することがあります。関節軟骨は一度損傷すると元に戻すことが難しく、手術を行っても痛みが後遺障害として残る可能性があります。
骨の変形による痛み
骨が癒合しても、本来の形とは異なる状態でつながってしまうことがあり、これが痛みの原因になる場合があります。特に背中や腰は痛みが生じやすく、事故の衝撃で椎体(背骨の一部)を圧迫骨折や破裂骨折し、骨の変形が残ってしまうことが典型例です。
可動域制限
骨折部位の痛みだけでなく、関節の動きが制限されることも多くあります。関節周辺の骨折では、骨が癒合しても機能が完全には回復しないケースが少なくありません。
骨や関節の位置にわずかなズレが生じたり、長期間のギプス固定によって関節が硬直し、可動域が狭くなることがあります。
後遺障害等級認定では、この「関節の可動域(どれだけ動かせるか)」を具体的に測定し、等級判断の重要な資料とします。
開放骨折(複雑骨折)
開放骨折は、骨が皮膚を突き破って外部に露出してしまう重度の骨折です。交通事故で開放骨折となった場合、感染症や血管・神経損傷など合併症が多く、後遺障害が残りやすいといえます。
さらに骨癒合不全(骨が完全にくっつかない状態)により、慢性的な痛みや運動障害が残ることもあります。なお、一般的に「複雑骨折」と呼ばれるものは開放骨折を指し、骨が粉々に砕ける骨折は「粉砕骨折」と区別されます。
後遺障害等級認定の対象となる骨折の後遺症と認定のポイント
交通事故による骨折は、適切に治療が行われれば後遺障害が残らないことも多くあります。しかし、治癒の過程で骨の癒合が不十分であったり、関節や神経に障害が及んでしまった場合には、後遺障害等級認定の対象となることがあります。
認定対象となりやすい骨折の後遺症
交通事故による骨折では、治療を終えても機能や形態が完全には回復せず、後遺障害として認定されるケースがあります。代表的なものは次の6種類です。
① 神経障害
骨折部位の神経にダメージが残り、しびれや痛みが続くもの
② 運動障害
脊柱などが固まってしまい、可動域が大きく制限されるもの
③ 機能障害
上肢・下肢や手指・足指が動かなくなったり、機能の一部を失うもの
④ 変形障害
骨折部位が変形したまま癒合したり、偽関節が生じるもの
⑤ 欠損障害
重度の骨折により、上肢・下肢や指の一部を切断せざるを得なかったもの
⑥ 短縮障害
大腿骨や脛骨の骨折などで、下肢が短くなってしまうもの
後遺障害等級認定のために重要なポイント
後遺障害等級の認定では、症状が骨折によって生じたものであることを医学的に裏付ける必要があります。そのために、以下の点が重視されます。
事故直後からの症状申告
痛みや違和感を感じた部位はすべて医師に伝えることが大切です。初期に申告していないと、後に交通事故との因果関係が否定されるリスクがあります。
画像検査による記録
レントゲンだけでなく、必要に応じてCTやMRI、3DCTといった詳細な検査を受けておくことが推奨されます。これにより、骨折の有無や経過、神経症状との関連が明確になります。
定期的な検査と経過観察
骨癒合の進み方は一度の検査では判断できません。定期的に画像検査を行い、骨折の経過を記録しておくことで、後遺障害認定に必要な証拠を蓄積できます。
神経症状の立証
骨折に伴ってしびれや痛みが残る場合は、骨折が原因であることを示す医療記録が不可欠です。骨折の影響による神経症状は、他の傷病と比較して因果関係が認められやすい傾向にあります。
交通事故被害で骨折を負った場合に可能性のある後遺障害等級と賠償金額
交通事故による骨折では、症状の内容によって後遺障害等級1級から14級まで幅広く認定される可能性があります。そして、等級が上がるほど被害者が受けられる賠償金額は大きく変動します。
ここでは、認定される可能性のある後遺障害の種類と、それに対応する等級・賠償金額の目安を整理します。
神経障害
骨折によって神経が損傷し、しびれや痛みが残るものをいいます。
| 等級 | 内容 |
|---|---|
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
※出典:日弁連交通事故相談センター東京支部「損害賠償額算定基準」
運動障害
脊柱(背骨)が強直したり、可動域が制限されるものをいいます。
| 等級 | 内容 |
|---|---|
| 6級5号 | 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの |
| 8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
※出典:日弁連交通事故相談センター東京支部「損害賠償額算定基準」
機能障害
上肢・下肢や手指・足指の関節が強直、あるいは著しい可動域制限を残すものをいいます。
| 等級 | 内容 |
|---|---|
| 1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの |
| 1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの |
| 4級6号 | 両手の手指の全部の用を廃したもの |
| 5級6号 | 一上肢の用を全廃したもの |
| 5級7号 | 一下肢の用を全廃したもの |
| 6級6号 | 一上肢の三大関節中二関節の用を廃したもの |
| 6級7号 | 一下肢の三大関節中二関節の用を廃したもの |
| 7級7号 | 一手の五指又はおや指を含む四指の用を廃したもの |
| 7級11号 | 両足の足指の全部の用を廃したもの |
| 8級4号 | 一手のおや指を含む三指、又はおや指以外の四指の用を廃したもの |
| 8級6号 | 一上肢の三大関節中一関節の用を廃したもの |
| 8級7号 | 一下肢の三大関節中一関節の用を廃したもの |
| 9級13号 | 一手のおや指を含む二指、又はおや指以外の三指の用を廃したもの |
| 9級15号 | 一足の足指の全部の用を廃したもの |
| 10級7号 | 一手のおや指又はおや指以外の二指の用を廃したもの |
| 10級10号 | 一上肢の三大関節中一関節に著しい機能障害を残すもの |
| 10級11号 | 一下肢の三大関節中一関節に著しい機能障害を残すもの |
| 11級9号 | 一手のひとさし指、中指又はくすり指の用を廃したもの |
| 12級6号 | 一上肢の三大関節中一関節に機能障害を残すもの |
| 12級7号 | 一下肢の三大関節中一関節に機能障害を残すもの |
| 12級10号 | 一手のひとさし指、中指又はくすり指の用を廃したもの |
| 12級12号 | 一足の第1足指又は他の4足指の用を廃したもの |
| 13級6号 | 一手の小指の用を廃したもの |
| 13級10号 | 一足の第2足指の用を廃したもの、または第2足指を含む2指、または第3足指以下の3指の用を廃したもの |
| 14級7号 | 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸できなくなったもの |
| 14級8号 | 一足の第3足指以下の1~2指の用を廃したもの |
※出典:日弁連交通事故相談センター東京支部「損害賠償額算定基準」
変形障害
骨折後に癒合不全や変形が残り、外見や運動に影響を及ぼすものをいいます。
| 等級 | 内容 |
|---|---|
| 6級5号 | 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの |
| 7級9号 | 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
| 7級10号 | 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
| 8級8号 | 一上肢に偽関節を残すもの |
| 8級9号 | 一下肢に偽関節を残すもの |
| 11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
| 12級5号 | 鎖骨・胸骨・肋骨・肩甲骨・骨盤骨に著しい変形を残すもの |
| 12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
※出典:日弁連交通事故相談センター東京支部「損害賠償額算定基準」
欠損障害
骨折が重症化し、上肢・下肢や手指・足指の一部を失ったものをいいます。
| 等級 | 内容 |
|---|---|
| 1級3号 | 両上肢をひじ関節以上で失ったもの |
| 1級5号 | 両下肢をひざ関節以上で失ったもの |
| 2級3号 | 両上肢を手関節以上で失ったもの |
| 2級4号 | 両下肢を足関節以上で失ったもの |
| 3級5号 | 両手の手指の全部を失ったもの |
| 4級4号 | 一上肢をひじ関節以上で失ったもの |
| 4級5号 | 一下肢をひざ関節以上で失ったもの |
| 4級7号 | 両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
| 5級4号 | 一上肢を手関節以上で失ったもの |
| 5級5号 | 一下肢を足関節以上で失ったもの |
| 5級8号 | 両足の足指の全部を失ったもの |
| 6級8号 | 一手の五指又はおや指を含む四指を失ったもの |
| 7級6号 | 一手のおや指を含む三指、又はおや指以外の四指を失ったもの |
| 7級8号 | 一足をリスフラン関節以上で失ったもの |
| 8級3号 | 一手のおや指を含む二指、又はおや指以外の三指を失ったもの |
| 8級10号 | 一足の足指の全部を失ったもの |
| 9級12号 | 一手のおや指又はおや指以外の二指を失ったもの |
| 9級14号 | 一足の第1足指を含む2指以上を失ったもの |
| 10級9号 | 一足の第1足指又は他の4足指を失ったもの |
| 11級8号 | 一手のひとさし指、中指又はくすり指を失ったもの |
| 12級9号 | 一手の小指を失ったもの |
| 12級11号 | 一足の第2足指、または第2足指を含む2指、または第3足指以下の3指を失ったもの |
| 13級7号 | 一手のおや指の指骨の一部を失ったもの |
| 13級9号 | 一足の第3足指以下の1~2指を失ったもの |
| 14級6号 | 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
※出典:日弁連交通事故相談センター東京支部「損害賠償額算定基準」
短縮障害
下肢が骨折の影響で短くなるものをいいます。
| 等級 | 内容 |
|---|---|
| 8級5号 | 一下肢を5cm以上短縮したもの |
| 10級8号 | 一下肢を3cm以上短縮したもの |
| 13級8号 | 一下肢を1cm以上短縮したもの |
※出典:日弁連交通事故相談センター東京支部「損害賠償額算定基準」
後遺障害等級ごとの慰謝料の目安
後遺障害慰謝料は、等級ごとに基準額が定められており、算定基準には「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判所(弁護士)基準」の3種類があります。もっとも高額となるのは裁判所基準で、裁判実務に基づいた金額です。なお、任意保険基準は保険会社独自の基準であり、非公開となっていますが、一般的に裁判基準よりは低いと言われています。
| 等級 | 弁護士基準 | 自賠責基準 |
|---|---|---|
| 1級 | 約2800万円 | 1150万円 |
| 2級 | 約2370万円 | 998万円 |
| 3級 | 約1990万円 | 861万円 |
| 4級 | 約1670万円 | 737万円 |
| 5級 | 約1400万円 | 599万円 |
| 6級 | 約1180万円 | 512万円 |
| 7級 | 約1000万円 | 419万円 |
| 8級 | 約830万円 | 331万円 |
| 9級 | 約690万円 | 249万円 |
| 10級 | 約550万円 | 190万円 |
| 11級 | 約420万円 | 136万円 |
| 12級 | 約290万円 | 94万円 |
| 13級 | 約180万円 | 57万円 |
| 14級 | 約110万円 | 32万円 |
※出典:日弁連交通事故相談センター東京支部「損害賠償額算定基準」
後遺障害等級ごとの逸失利益(労働能力喪失率・期間の目安)
慰謝料に加えて、骨折による後遺障害では「逸失利益(将来得られたはずの収入の減少分)」も大きな賠償要素となります。逸失利益は次の式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
- 基礎収入:事故前年の収入が基準
- 労働能力喪失率:等級ごとに法律上定められた割合
- ライプニッツ係数:将来の収入を一括で受け取る際に、利息分を差し引いて「現在の価値」に換算するための係数。労働能力喪失期間の年数に応じて定められている。
以下は、等級ごとに定められた「労働能力喪失率」と「喪失期間」の目安です。
| 等級 | 労働能力喪失率 | 労働能力喪失期間の目安 |
|---|---|---|
| 1級 | 100% | 67歳まで(生涯) |
| 2級 | 100% | 67歳まで(生涯) |
| 3級 | 100% | 67歳まで(生涯) |
| 4級 | 92% | 67歳まで(生涯) |
| 5級 | 79% | 67歳まで(生涯) |
| 6級 | 67% | 67歳まで(生涯) |
| 7級 | 56% | 67歳まで(生涯) |
| 8級 | 45% | 67歳まで(生涯) |
| 9級 | 35% | 67歳まで(生涯) |
| 10級 | 27% | 67歳まで(生涯) |
| 11級 | 20% | 67歳まで(生涯) |
| 12級 | 14% | 67歳まで(生涯) |
| 13級 | 9% | 67歳まで(生涯) |
| 14級 | 5% | 原則5年程度 |
逸失利益の計算例
ここでは、実際に「年齢」「収入」「後遺障害等級」が異なるケースごとに、逸失利益がどの程度になるのかを見ていきましょう。あくまで目安ですが、トータルの賠償額を考えるうえで参考になります。
このように、同じ骨折による後遺障害でも、等級・年齢・収入によって大きく賠償額が変動します。
まとめ|骨折後は早期の記録と適切な対応を
交通事故による骨折は治療で回復することも多いですが、癒合不全や神経・関節の障害が残れば、後遺障害として認定され賠償に直結します。等級の違いで慰謝料や逸失利益は数百万円から数千万円、場合によっては1億円規模まで変わることもあります。
そのため、事故直後から医師に症状を詳しく伝え、画像検査や経過観察を記録に残すことが不可欠です。後遺障害の立証や賠償請求には専門的な知識が必要となるため、早い段階で弁護士に相談することで、適切な等級認定と正当な補償を受けられる可能性が高まります。
