降格・配転による賃金の引下げについて

近年、成果主義的思想の広まりを受けて、労働者の能力・成果と賃金を結び付ける制度を採り入れる企業が増えています。この制度のもとでは、能力・成果が芳しくない場合は賃金や役職の引下げが行われる可能性があります。

このページでは、降格・配転による賃金の引下げの考え方について、弁護士が解説します。

降格・配転による賃金の引下げの種類

降格・配転に伴う賃金の引下げについては、以下の3つの種類に分けることができます。

①職位・役職を引き下げる場合

②職能資格等級を引き下げる場合

③職務等級を引き下げる場合

以上の3つの種類を順番に検討していきます。

職位・役職の引き下げ

例えば、係長から平社員に降格する場合がこれにあたります。

賃金の引下げを伴わない降格の可否については、使用者は、労働契約上当然に、組織内における労働者の具体的配置を決定・変更する広範な人事権を有していることから、就業規則等の具体的な根拠規定がなくても、人事権の行使として職位・役職の変更を行うことができます。

賃金の引下げを伴う降格については、就業規則において定められた賃金の体系と基準に従って行われることが必要です。また、降格が基本給等の減額を伴う場合には、処分の有効性は厳格に判断されます。

近鉄百貨店事件(大阪池畔平成11年9月20日)は、「部長待遇職」であった原告に対する、4万8000円の賃金減額を伴う「課長待遇職」への降格処分について、管理職から非管理職への降格について使用者の裁量は(管理職内での降格と比較すれば)狭く解するべきである旨を指摘して、人事権の裁量を逸脱・濫用した違法なものであると判断しました。

職能資格の引下げ

職能資格制度とは、企業における職務遂行能力を職掌として大きく分類したうえ、各職掌における職務遂行能力を資格とその中でのランク(級)に序列化したものです。

職能資格制度における職能資格は、基本給を決定する要素で、人事権を行使して職能資格を引き下げる場合には、就業規則等の明確な根拠規定が必要です。

また、職能資格の引下げとしての降格については、契約上の根拠規定が存在する場合も、その契約内容にそった措置であるか、権利濫用(労働契約法3条5項)にあたる事情がないかが検討されます。

特に、資格・等級を企業組織内での技能・経験の積み重ねによる職務遂行能力とする職務資格制度では、通常は一度獲得した職務遂行能力である職能資格の低下は予定されていないため、権利濫用にあたるかが厳格に審査されます。具体的には、業務上の必要性の有無や程度、労働者の不利益の有無や程度、不当な動機の有無や程度などが考慮されますが、基本給の減額は労働者に重大な不利益を及ぼし得る事情ですので、減額の幅は重要視されると考えられています。

日本ガイダント事件(仙台地決平成14年11月14日)では、配転と降格が同時に行われたが、これにより基本給が約半分となった点が重視され、降格は客観的合理性がなく無効であり、これにより配転自体も無効になると判断されました。

また、エーシーニールセン・コーポレーション事件(東京地判平成16年3月31日)では、降給が許容されるのは、就業規則等による労働契約に降給が規定されているだけでなく、降給が決定される過程に合理性があること、その過程が従業員に告知されてその言い分を聞く等の公正な手続きが存することが必要であり、降給の仕組み自体に合理性と公正さが認められ、その仕組みに沿った降給の措置が採られた場合には、個々の従業員の評価の過程に特に不合理ないし不公正な事情が認められない限り、当該降給は許容されると判示しています。

降級についても、就業規則上の降級事由に該当すると認めるに足りる的確な証拠が存在しないとして、使用者の裁量権の範囲を逸脱したものであるから無効と判断された事案があります(マッキャンエリクソン事件 東京高判平成19年2月22日)。

職務等級の引き下げ

職務等級とは、労働者の能力ではなく職務内容に着目する制度であり、企業内の職務を職責の内容・重さに応じて等級を分類・序列化し、等級ごとに賃金額の最高値、中間値、最低値による給与範囲を設定するものです。

職務等級制度では、職能資格制度とは異なり、もともと制度上、職務等級の変更が予定されていることから、職務等級の引下げも、当該制度の枠組みのなかでの人事評価の手続と決定権に委ねられ、それが違法となるのは権利濫用となる場合に限られます。実際の権利濫用該当性の判断においては、職務等級の引下げは賃金の減額に直結することから、より厳格に判断する必要があるとの見解が有力です。

まとめ

成果主義的思想により、労働者の能力・成果と賃金を結び付ける制度は、適正に運用される限りにおいては使用者側と被用者側の双方にとって需用があるものといえます。しかし、使用者側の恣意的な運用がされるおそれがあり、被用者の権利が不当に侵害される可能性があるため、その有効性については厳格に判断されます。

使用者側がこのような制度を採り入れ、運用する場合においては、慎重な検討が必要です。

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