【建設業(建築・大工・土木工事等)の破産手続】倒産時の注意点と特徴的なこと

建設業は、請負契約や多重下請け構造、現場ごとの資金繰りなど、他業種とは異なる特性を多く抱える業界です。こうした構造的な特徴により、資金繰りが厳しくなりやすく、元請・下請間の連鎖倒産や現場トラブルなど、破産に際して特有のリスクが生じやすくなっています。

本記事では、建設業者が倒産に直面したときに注意すべきポイントや、破産手続における建設業特有の課題について、実務に即してわかりやすく解説します。また、法人破産と合わせて検討が必要な経営者個人の債務整理や、破産以外の再建手段についても紹介します。

建設業(建築・大工・土木工事等)特有の負債と破産手続の特徴

ここでは、建設業の破産で特に注意すべき点を、現場の構造や契約関係に即してわかりやすく解説します。

建設業特有の負債を生む請負契約と多重下請け構造

建設業における破産は、資金繰りの構造的な難しさと、業界特有の多重下請け体制によって、他業種以上に深刻なケースが少なくありません。

建設業者の多くは、施主との「請負契約」に基づいて業務を行っており、工事が完成しなければ代金が支払われないという仕組みになっています。建物の施工に必要な資材費や人件費、下請業者への支払は、完成前に先行して発生します。そのため、多くの建設業者は、完成・引き渡し前に資金を調達しなければならず、運転資金として借入れを行うのが一般的です。

たとえば、自宅を建てる場合でも、基礎工事・大工工事・電気工事・内装工事など、各分野の専門業者が順に関わります。こうした下請業者や職人への支払いは、元請業者が工事代金を回収する前に発生するため、資金繰りは常に綱渡りです。

このような構造のもとで、元請業者や施主からの支払いが遅れたり、上位業者が倒産した場合には、下位の業者が一気に資金難に陥り、いわゆる「連鎖倒産」に発展するおそれがあります。いわゆる「黒字倒産」が起こりやすいのも、このような背景があるからです。

高額な債務と“顔の見える債権者”による現場トラブルのリスク

建設業における大きな特徴の一つが、債務の金額が高額になりやすいこと、そして債権者との関係が極めて近いという点です。

工事請負契約は、規模の大小にかかわらず、数百万円から数千万円に及ぶ高額な取引になるのが一般的です。これは、資材費や人件費に加え、工程ごとに多数の業者が関与するため、単一の契約であっても必然的に金額が大きくなりやすいためと言われています。

さらに、建設業では金融機関のような書面上の債権者だけでなく、日常的に現場で顔を合わせている仕入先や下請業者、職人たちがそのまま債権者となります。こうした「顔の見える債権者」との関係性が、破産時の人間関係を複雑にし、感情的な対立や混乱を引き起こしやすくするのです。

未完成工事(仕掛工事)の存在が破産処理を複雑にする

さらに、建設業特有の注意点として、工事途中での破産(仕掛工事)の存在も無視できません。

建設業の請負契約では、「工事を完成させて初めて報酬を得られる」ことが基本ですが、破産申立の段階で工事が完成していない状態、つまり「仕掛工事」が残っているケースは少なくありません。このような場合、工事の続行や中止、契約解除や引き継ぎなどの判断は、裁判所から選任された破産管財人の判断に委ねられることになります。

特に複数の現場が同時進行している場合、工程の進捗状況や契約条件、支払い条件、関係業者の連絡先など、膨大な情報の整理と対応が必要です。取り扱いを誤れば、発注者から違約金や損害賠償を請求されるなど、二次的な損害が発生するおそれもあります。

建設業(建築・大工・土木工事等)の破産手続の流れ

ここでは、一般的な破産手続の流れを、建設業の実務に即してわかりやすく解説していきます。

① 弁護士への相談と方針決定

経営悪化に直面した場合、まずは法人破産に詳しい弁護士に相談し、現時点で「破産手続を選ぶべきか、それとも再建の余地があるか」を慎重に見極めることが重要です。たとえ債務超過の状態にあっても、状況次第では民事再生や任意整理といった再建型の手続を選択することで、事業を継続できる可能性もあります。早い段階で弁護士に現状を共有し、対応方針を明確にしておきましょう。

② 破産申立て前の準備

破産手続を選択すべきと判断された場合には、弁護士の助言を受けながら、申立に向けた具体的な準備を進めていきます。たとえば、資産や負債の一覧表を作成したり、取引先や工事現場の状況を整理したりするほか、必要書類の収集なども必要です。

なお、個人の破産と異なり、法人破産では「受任通知(破産手続に入る旨を知らせる書面)」をあえて送付しないケースもあります。これは、破産準備中であることが債権者に伝わってしまうと、現場への取り立てや混乱を引き起こすおそれがあるためです。特に建設業では、工事現場や取引関係の混乱を避けるためにも、密行性を保った手続進行が求められます。

また、破産に先立って従業員を解雇する必要がある場合には、解雇予告のタイミングや未払賃金の支払方法についても、あらかじめ説明と対応策を検討しなければなりません。

あわせて、会社の取締役会設置の有無も確認しておきましょう。取締役会設置会社の場合は、破産申立て前に取締役会の決議を経て、その議事録を裁判所に提出する必要があります。ただし、建設業では名義上の役員が登記されているだけで、実際の経営に関与していないケースも少なくありません。このような場合には、全役員の同意や署名を取り付けるのが困難なこともありえます。その際には、個々の取締役が単独で申立を行う「準自己破産」という制度によって、手続を進めることが可能です。

③ 裁判所への破産申立て

申立準備が整ったら、管轄の地方裁判所に対して破産手続開始の申立てを行います。申立ては原則として代理人弁護士を通じて行われるため、会社代表者が直接裁判所に出向く必要はありません。

なお、代表者個人が会社の債務の連帯保証人になっている場合には、法人と同時に代表者個人の破産申立ても検討されることがあります。

④ 債務者審尋

申立てが受理された後、裁判所の判断によっては「債務者審尋」が実施される場合があります。これは、裁判官や破産管財人候補者が申立人に対して、破産に至った経緯や現在の状況、財産の内容などを確認するための手続です。債務者審尋は、口頭での面談形式で行われることもあれば、書面の提出によって対応するケースも見られます。

なお、裁判所から審尋への出頭を求める通知が届いた場合には、これに必ず応じる必要があります。無断で欠席したり、連絡を怠ったりすると、手続全体に支障が生じるおそれがあるため、注意が必要です。

⑤ 破産手続開始決定と破産管財人の選任

審尋を経て、裁判所が破産原因を認めた場合には「破産手続開始決定」が出されます。同時に、会社財産の管理・処分を担う破産管財人が選任されるのが通常です。

破産手続が開始されると、会社財産は「破産財団」として扱われ、会社自身がこれを自由に処分することはできなくなります。破産管財人が、財産調査・契約処理・売却・債権回収などの業務を担い、債権者への配当に備えることになります。

この段階で、破産管財人・申立代理人・会社代表者による面談が管財人事務所で行われ、状況確認と今後の進行方針が協議されます。

⑥ 債権者集会

破産手続開始からおおよそ3か月後を目安に、裁判所で債権者集会(財産状況報告集会)が開催されます。この場では、破産管財人が債権者に対して、財産状況や処理の進捗について報告を行います。

会社の代表者も代理人弁護士とともに出席し、必要に応じて補足説明を求められる場面があります。債権者集会は1回で終了することもある一方、処理が複雑な場合には複数回にわたって開催されることも少なくありません。

⑦ 配当と手続終了

破産管財人による財産の換価(売却)と債権の調査が終わり、配当に回せる財産が確保された場合には、債権者に対して配当が行われます。配当は原則として破産管財人が銀行振込で行うため、破産者が関与する必要はありません。

配当が完了するか、そもそも配当可能な財産がないと判断された場合には、破産手続は終了となります。この時点で会社は法人格を喪失し、負債も法的に消滅します。

破産以外の手続について

建設業者が経営に行き詰まった場合でも、必ずしも破産だけが選択肢とは限りません。状況次第では、事業を継続しながら再建を目指せる手段として「民事再生」や「任意整理(私的整理)」といった方法を選ぶことも可能です。ここでは、それぞれの特徴と注意点について簡単にご紹介します。

民事再生手続

民事再生は、会社を存続させながら債務を減額し、再建を図るための裁判上の手続です。裁判所に申し立てを行い、再生計画を策定し、債権者の同意を得ることで、負債の一部免除を受けながら経営の立て直しを目指します。

手続中は、裁判所から選任される監督委員の監視のもとで会社を運営しつつ、一定のルールに従って債務整理を進めることになります。現場が複数にわたり、長期の工期がある建設業にとっては、法的保護のもとで営業を継続できる点は大きなメリットです。

ただし、民事再生は公的な手続であるため、申立が外部に知られることで取引先の信頼を損ない、新たな受注が困難になる可能性もあります。特に建設業では、発注者の信頼や工事中の安定性が重視されるため、イメージリスクや取引停止のリスクを十分に考慮する必要があるでしょう。

個人への保証債務がある場合の建設業(建築・大工・土木工事等)経営者の債務整理

建設業を営む企業が法人破産を検討する際、見落としてはならないのが経営者個人の「保証債務」の存在です。中小建設会社では、銀行からの融資、資材の仕入れ、重機リースなどの取引に際し、代表者や役員が会社の債務に対して個人として連帯保証をしていることが非常に多くあります。

このような保証契約がある場合、会社の破産だけでなく、経営者個人についても債務整理が必要な場合があります。

法人破産と同時に個人破産が必要になるケースが多い

会社が破産すると、当然ながら借入債務の返済は困難になります。その結果、連帯保証をしている経営者個人に返済義務が移転し、会社の負債がそのまま個人の債務として重くのしかかる構図となります。

特に建設業では、仕入れや工事にかかる費用が高額になりやすく、保証債務の額も膨らみがちです。結果として、会社だけでなく、経営者個人についても自己破産の手続が必要になるケースが非常に多く見受けられます。

自己破産以外の選択肢も検討できる場合がある

とはいえ、すべてのケースで、経営者個人が自己破産を選ばなければならないとは限りません。たとえば、保証している債務が限定的であったり、個人の資産や収入によって返済が見込める場合には、個人再生や任意整理といった柔軟な債務整理方法を選択できる可能性もあります。

経営者保証に関するガイドライン」による債務整理

さらに「経営者保証に関するガイドライン」に基づく債務整理を利用できる場合もあります。これは、金融機関との協議によって保証債務を整理する私的整理手続で、裁判所の特定調停を利用する手続と中小企業活性化協議会の支援を受けて行う手続の2種類があります。

主なメリットとしては、次のような点が挙げられます。

  • 一定の生活費や華美でない自宅などを手元に残せる可能性がある
  • 信用情報機関に登録されず、クレジットカードやローンの利用制限を避けられる
  • 破産よりも社会的信用を保ちやすく、再起業や生活再建につながりやすい

もっとも、利用には注意点もあり、次のような制約があります。

  • 対象は原則として金融機関の債権に限られる
  • 全金融機関の同意が必要で、多数決は認められない
  • 破産よりも多くの回収が見込めるなど「経済的合理性」が要件となる

建設業は取引規模が大きく、保証債務も高額になりやすいため、破産だけでなく、このガイドラインを選択肢として検討する意義は大きいといえます。法人破産と併せて利用可能かどうか、早めに弁護士に相談することが重要です。

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