会社の廃業(解散から清算)について

業績不振や後継者不在、あるいは体力的な限界など、会社の継続に不安を抱いたときに検討すべきなのが「会社の廃業」です。

しかし、会社はただ営業をやめれば消滅するわけではなく、法律上の手続をきちんと踏む必要があります。

本記事では、会社の解散・清算の意味と違い、特別清算の意義、解散が可能となる条件、従業員や取引先への対応、手続の具体的な流れ、そして廃業判断のタイミングについて、わかりやすく解説します。

会社の解散とは

会社の解散とは、会社としての事業活動を中止して、法人格を消滅させるための手続のことです。

ただし、解散をもって法人格がすぐに消滅するわけではありません。この後に説明する「清算」という手続が完了してはじめて、会社は完全に消滅します。

会社の清算とは

会社の清算とは、解散した会社が所有する財産を換価し、債権者への弁済を行った後に、残余財産を株主または出資者に分配する手続をいいます。

会社は、解散しただけでは終わりません。会社法上、解散後は清算を行う必要があり、この段階に入った会社は「清算会社」と呼ばれます。また、清算の実務を担当する「清算人」も選任されます。通常は元の取締役や、株主総会で選ばれた人物が務めます。

清算手続が完了すれば、会社は法的に消滅します。

特別清算とは?通常清算・破産との違い

特別清算とは、会社が多額の負債を抱えて債務超過に陥っているときや、通常の清算では債権者間の調整が困難なときに利用される清算手続です。会社法を根拠にした制度で、株式会社のみが対象となります。

特別清算と通常清算の違い

特別清算は、会社が債務超過に陥った場合や、清算の遂行に重大な支障がある場合に利用される清算手続で、裁判所の監督下で進められる点が大きな特徴です。清算人や債権者の申立てに基づき手続が開始され、債権者集会で弁済方法を協議します。成立には、出席債権者の過半数かつ議決権総額の3分の2以上の同意が必要であり、債権者の合意形成が不可欠となります。

一方、通常清算は、会社が債務超過に陥っていない場合に用いられます。清算人(通常は元の取締役など)が会社財産を換価し、債権者への弁済を行った上で、残余財産を株主に分配します。この場合、裁判所の関与は不要であり、清算人と株主総会の承認を中心に比較的スムーズに手続を進めることが可能です。

特別清算と破産の違い

特別清算と破産には、次のような違いがあります。

  • 同意の要否:特別清算は株主や債権者の同意が必要ですが、破産は不要です。
  • 財産管理権:特別清算では清算人が財産を管理しますが、破産では裁判所が選任する破産管財人が管理します。
  • 否認権の有無:破産では不当な財産流出を取り消せる「否認権」が認められますが、特別清算にはありません。

解散・清算をするための条件

会社が解散・清算を行うには、法律上の正当な理由が必要です。会社法では、会社が解散する具体的な7つの事由を定めており、いずれかに該当した場合に会社の清算が開始されます。

① 定款で定めた存続期間の満了

会社の定款に「〇年まで存続する」といった期間が定められている場合、その期間が終了すると自動的に解散となります。

② 定款で定めた解散事由の発生

「あるプロジェクトの完了」「従業員数が一定以下になる」など、特定の条件を定款で定めておくことができます。その条件に該当すると、会社は解散します。

③ 株主総会の特別決議

株主総会で出席株主の3分の2以上の賛成が得られた場合、会社は解散となります。実際には、定款に特別な定めがない会社ではこの方法で解散するケースがもっとも一般的です。外部株主がいないオーナー企業であれば、経営者の意思で柔軟に解散を進められます。

④ 合併による消滅

他社との合併によって、会社が存続しない形となる場合、その会社は解散したものと扱われます。吸収合併・新設合併のいずれでも、消滅する会社について清算が行われます。

⑤ 裁判所による破産手続開始の決定

会社が経営破綻し、裁判所から破産手続の開始決定を受けると、その時点で会社は法的に解散となります。この場合は、通常の清算ではなく、破産手続によって債務整理が進められます。

⑥ 裁判所の解散命令

会社の違法行為や著しい公益違反が認められた場合、裁判所が解散を命じることがあります。この場合も、解散後は清算手続が行われます。

⑦ 休眠会社としての「みなし解散」

最後の登記から12年以上経過している株式会社は、法務局によって「解散したもの」とみなされることがあります。官報公告後2か月以内に必要な登記がなければ、職権で解散登記がされます。ただし、解散から3年以内であれば、一定の手続を経て会社を復活させることも可能です。

従業員への対応

会社を解散・清算する際には、事業の終了に伴って従業員との雇用関係を終了させる必要があります。

もっとも望ましいのは、従業員本人の同意を得たうえで、合意退職という形をとる方法です。解散理由や時期、退職条件(退職日や退職金など)について丁寧に説明し、理解を得ながら進めていくことが、トラブルを避けるうえでも重要です。

しかし、従業員の側が退職に同意しないケースもあります。その場合には、整理解雇を行うことになります。整理解雇とは、従業員に落ち度がないにもかかわらず、会社の都合で、解雇を行うことをいいます。したがって、一般の懲戒解雇や能力不足による解雇と比べて、慎重な手続と合理的な理由が必要とされます。

取引先への対応

会社の解散・清算を決めたら、取引先に対しても廃業の事実を伝える必要があります。通知が遅れたり、説明が不十分だったりすると、信頼関係を損ねたり、損害賠償のトラブルに発展したりする可能性があるため、配慮をもって丁寧に対応することが重要です。

通知は、口頭やメールではなく、必ず解散日や取引終了日を明記した書面で行うようにしましょう。通知のタイミングについても、遅くとも1か月以上前には連絡するのが基本です。相手の業務計画や納品体制に影響を及ぼすおそれがあるため、余裕をもって伝えることがトラブル防止につながります。

なお、通知文に廃業の詳細な理由まで記載する必要はありません。「諸般の事情により廃業する運びとなりました」など、一般的で簡潔な表現で十分です。相手に対する配慮と誠実な姿勢を示しながら、冷静に手続を進めることが、円満な取引終了の鍵となります。

会社の解散・清算手続の流れ

会社を終了させるためには、解散の決議から清算結了登記に至るまで、法律に基づいた段階的な手続を踏む必要があります。以下は、一般的な株式会社が事業を終了する際の基本的な流れです。

① 株主総会の特別決議による解散決定

会社を解散するには、株主総会における特別決議が必要です。これは、発行済株式の過半数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成によって可決されます。定款に存続期間や解散事由の記載がない会社では、この手続によって会社の終了が決定されるのが一般的です。

② 解散および清算人の登記

解散の決議とあわせて、会社の財産や債務の整理を担当する「清算人」を選任します。通常は代表取締役などがそのまま就任しますが、外部の弁護士などを選ぶことも可能です。解散日から2週間以内に、法務局に対して「解散登記」と「清算人選任登記」を行う必要があります。

③ 関係機関への解散届出

登記後は、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場、年金事務所、ハローワーク、労働基準監督署などの関係機関に対して、解散の事実を届け出ます。それぞれ提出期限や必要書類が異なるため、個別に確認して対応を進めることが求められます。

④ 財産目録および貸借対照表の作成

清算人は就任後、速やかに会社の財産状況を調査し、財産目録と貸借対照表を作成します。これらの書類は株主総会の承認を受け、会社に保管しておきます。

⑤ 債権者保護手続(官報公告・個別催告)

会社に債権を持つ者に対して、申し出の機会を確保するため、清算人は「官報公告」により解散を通知します。公告は2か月以上の期間を設けて行い、その間に申し出がなかった債権者は手続から除外されることがあります。併せて、把握している債権者には個別に通知(催告)する必要があります。

⑥ 解散確定申告書の提出(税務署)

解散日までの事業活動について、税務署へ確定申告書を提出します。提出期限は解散日の翌日から2か月以内です。

⑦ 債権回収・債務弁済・残余財産の分配

債権者の確定後、清算人が会社の資産を売却・換金し、債務の弁済を進めます。その後、余剰がある場合には残余財産として株主へ分配されます。弁済は、官報公告の申出期間が終了し、債権者が確定してから行います。

⑧ 清算確定申告書の提出(税務署)

残余財産の確定後、税務署へ「清算確定申告書」を提出します。提出期限は、残余財産確定の日の翌日から1か月以内です。なお、清算期間が1年を超える場合は、清算期間中も事業年度ごとに法人税の確定申告書を提出する必要があります。

⑨ 決算報告書の作成と株主総会での承認

清算人は、すべての清算事務が完了した後、決算報告書を作成し、株主総会にてその内容の承認を受ける必要があります。この承認をもって、会社の法人格は消滅することになります。

⑩ 清算結了の登記

株主総会で承認を受けたら、2週間以内に法務局で「清算結了登記」を行います。株主総会議事録が必要です。

⑪ 清算結了後の届出

最後に、税務署・都道府県税事務所・市区町村役所などに対し、清算結了の異動届を提出してすべての手続が完了します。

会社廃業のタイミングは遅くならないようにする

会社を廃業するタイミングは、できる限り余裕をもって判断することが大切です。事業の継続が難しい状況に陥ってから廃業を検討しても、すでに債務が増えすぎていたり、関係者への影響が大きくなっていたりする可能性があります。そうなると、通常の清算では対応できず、破産や特別清算といった法的整理が必要になるおそれもあります。

さらに、廃業の決断が遅れることで、税務申告や登記手続、従業員対応、取引先への通知など、実務上の混乱を招くリスクもあります。取引先や従業員といった関係者への影響をできるだけ小さくするためにも、廃業時期を見誤らず、早めに準備を始めることが円滑な手続と信頼関係の維持につながります。

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