【飲食店(飲食業)の破産手続】倒産時の注意点と特徴的なこと

飲食店の経営が厳しくなり、倒産や破産を考えざるを得ないとき、「何から手を付ければいいのか」と不安になる方は少なくありません。

飲食業には賃貸物件やリース契約、食材の在庫など、他業種にはない注意点も多くあります。この記事では、飲食店(飲食業)の破産手続の特徴や流れ、破産以外の選択肢、経営者自身の保証債務の整理までをわかりやすく解説します。

飲食店(飲食業)の破産手続の特徴と特有の負債

飲食店を経営していて業績不振により事業の継続が難しくなった場合、最終的な選択肢として破産手続を検討することになります。破産手続は裁判所に申し立てることで始まり、すべての負債を法的に整理し、法人の場合は会社そのものも消滅します。

飲食店の破産手続には、ほかの業種にはあまり見られない特徴的な負債や、特に注意が必要なポイントがいくつかあります。

リース契約による設備や什器の扱い

飲食店では、厨房設備や家具などを購入ではなくリース契約で導入しているケースが多く見られます。

リース契約は初期費用を抑えられ、設備の管理や入れ替えもしやすい反面、破産する際には注意が必要です。リース物品は所有権がリース会社にあるため、破産手続を進める際にはすべて返却しなければなりません。

また、リース期間の途中で契約を解約すると、残りのリース料が一括で請求される場合があり、これも破産手続の中で債務として扱われます。どの設備が自社所有で、どれがリース品なのかを契約書で明確に区別しておくことが大切です。

賃貸物件を利用しているケースが多い

多くの飲食店は、自社所有の店舗ではなくテナント物件を借りて営業しています。しかし、たとえ破産しても賃貸借契約が自動的に終了するわけではありません。契約を正式に解除・解約しない限り、賃料の支払い義務は残り続け、破産前に発生した未払い家賃は他の債務と同じように整理されることになります。

できるだけ負債を増やさないためには、破産を申し立てる前に可能な限りテナント契約を整理しておくことが理想です。ただし、賃貸借契約の多くでは事前の解約予告が必要とされるため、すぐに解約するのは簡単ではありません。

また、テナントを明け渡す際には「原状回復義務」があり、店舗の内装を借りたときと同じ状態に戻す費用がかかるケースが多いのも注意点です。飲食店では厨房設備や内装をすべて撤去し、コンクリートむき出しの空っぽの状態に戻すことが求められる場合があり、これを「スケルトン戻し」と呼びます。スケルトン工事には高額の費用がかかることもあり、負担を減らすために居抜き物件として引き取ってくれる人を探すなどの対応を検討することもあります。

このように、テナント契約の整理や原状回復の準備は、飲食店の破産手続を進めるうえで気をつけるべき重要なポイントの一つです。

食材や在庫の処理の問題

飲食業ならではのポイントとして、賞味期限のある食材や酒類などの在庫の取り扱いにも注意が必要です。在庫が残っていても時間が経てば廃棄するしかなくなり、資産としての価値を失ってしまいます。そのため、在庫を最小限に抑え、余った食材をどう処理するかも早めに検討しておくことが欠かせません。

フランチャイズ契約を結んでいる場合

大手チェーンに加盟している飲食店の場合、フランチャイズ契約の取り扱いも重要なポイントです。フランチャイズ契約を終了する際には、内容によって違約金が発生する可能性があり、破産を選択する経営状況で支払えるケースはほとんどありません。本部と調整が必要になる場合もあり、こちらも弁護士に相談しながら進めることが大切です。

飲食店(飲食業)の破産手続の流れ

飲食店を経営していて破産を検討する場合は、一般的な法人破産の流れと同様の手続きを踏みながらも、飲食業特有の事情に配慮して進める必要があります。ここでは、手続きの大まかな流れを紹介します。

① まずは弁護士に相談する

経営が厳しくなり破産を考え始めたら、まずは法人破産に詳しい弁護士へ相談することが大切です。弁護士は、現状の資産や負債の状況を整理し、破産手続を進めるべきか、それ以外に再建の道が残っていないかを一緒に検討します。

② 破産手続の正式な依頼と受任通知の発送

破産を進めることが決まったら、弁護士と委任契約を結び、正式に手続きを依頼します。弁護士は債権者へ「受任通知」を発送し、以降は債権者からの取り立てや連絡が直接会社に来ないようにします。今後のやり取りはすべて弁護士が窓口となるため、経営者の精神的な負担が大きく軽減されます。

③ 必要書類の準備・残務処理・従業員への対応

破産の申立てには、申立書や財産目録など多くの書類が必要です。この段階で未払いの債務整理や、従業員の解雇手続きも進めます。飲食店の場合、従業員に閉店予定が漏れると仕入先や取引先、常連客にも広まり、支払いを求める債権者が店舗に押しかけてしまう可能性があります。従業員への説明のタイミングは弁護士と慎重に相談して決める必要があります。

④ 裁判所への破産申立て

書類が整い次第、弁護士が代理人として裁判所へ破産の申立てを行います。代表者が自ら裁判所に出向いて手続きする必要は基本的にありません。

⑤ 破産手続開始決定と破産管財人の選任

裁判所が破産手続の開始を決定すると同時に、破産管財人が選任されます。破産管財人は会社が保有する財産を管理・売却して現金化し、債権者への配当を行う役割を担います。通常、当事者と利害関係のない弁護士が選ばれます。

⑥ 破産管財人との打ち合わせ

破産管財人と代理人弁護士、そして代表者が三者で、会社の財産や負債の状況を詳しく説明します。破産管財人はこの情報をもとに、在庫の処分や店舗設備の売却などを進めます。

⑦ 債権者集会の開催

破産手続開始から通常3か月ほどで、裁判所で債権者集会が開かれます。裁判官、破産管財人、代理人弁護士、債権者などが集まり、破産管財人から会社の財産状況や進捗について説明が行われます。

⑧ 債権者への配当と手続きの終了

売却や換価によって得た資金で、まず未払いの給与や税金などを優先的に支払います。残りの現金があれば一般の債権者に配当を行いますが、資金が残らない場合には配当は行われません。すべての配当が終われば破産手続は完了し、法人としての飲食店も登記簿が閉鎖されて消滅します。

破産以外の手続について

飲食店を閉めるとき、必ずしも破産だけが選択肢とは限りません。資金繰りが厳しくても、条件によっては会社を存続させながら負債を整理できる場合もあります。ここでは、破産以外に検討できる代表的な手続きについて解説します。

民事再生手続き

民事再生は、裁判所を通じて債務を整理しつつ、事業を立て直すことを目的とした制度です。

破産が「会社を清算する手続き」なのに対し、民事再生は「会社を再建させるための手続き」である点が大きな違いです。具体的には、債務を大幅に減額する再生計画を作り、裁判所の認可を受けたうえで、計画に沿って返済を進めます。計画通りに弁済を完了すれば、残りの債務は免除される仕組みです。営業利益が見込める場合や、資金援助してくれる協力者がいる場合には、破産せずに事業を続けられる可能性があります。

私的整理(任意整理)

私的整理、いわゆる任意整理とは、裁判所を介さずに債権者と直接話し合って負債を整理する方法です。

弁護士などの専門家が間に入り、支払い条件を見直して分割返済にしたり、返済額を減らしてもらう形で進めます。裁判所を使わないため、手続きが比較的簡単に進められるというメリットがありますが、債権者ごとに交渉するため合意がまとまらないこともあります。債権者全員の同意が得られなければ計画が実現できない点はデメリットです。

個人の保証債務がある場合の飲食店(飲食業)経営者の債務整理

飲食店を法人として経営している場合、代表者自身が店舗の家賃や設備資金などの借入の「連帯保証人」になっているケースは非常に多くあります。

一般に、法人が破産すると会社の借金は会社の破産手続で整理され、法人自体が消滅することで債務もなくなります。しかし、代表者が連帯保証をしていると、その保証部分は会社の破産とは別に「代表者個人の債務」として残ってしまいます

このため、飲食店オーナーのように多額の借入に個人で保証をつけている場合は、会社を破産させるだけでなく、代表者自身も自己破産などの手続を検討する必要が出てきます。

代表者が保証債務を背負う場合でも、状況に応じて自己破産だけでなく、任意整理や個人再生を選択できることもあります。個人再生なら自宅を手放さずに債務を圧縮して返済することも可能です。ただし、飲食店の場合は他業種と比べて個人保証の金額が大きいことが多く、返済が現実的でなければ自己破産が最善策になることもあります。

保証債務の有無や金額はケースによって大きく異なります。破産をするかどうかに加えて、代表者個人の債務整理を同時に進めるべきかどうかも含め、早めに弁護士に相談し、一体的に解決方法を考えることが重要です。

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