【法人・会社破産と個人破産】同時か・別々に手続するかの違い
会社の経営が立ち行かなくなったとき、代表者自身も多額の借金を抱えていることは少なくありません。このようなケースでは、法人の破産とあわせて、代表者個人も自己破産を検討することになります。
法人破産と個人破産は「同時に進める」ことも「別々に行う」ことも可能ですが、どちらを選ぶかによって費用や負担、今後の見通しが大きく変わってきます。
この記事では、法人破産と個人破産の基本的な違いを踏まえたうえで、同時申立と別申立それぞれのメリット・デメリットなどを解説します。
法人・会社破産と個人破産の定義
破産には、「法人(会社)」を対象とする破産と、「個人(代表者や事業主など)」を対象とする破産があります。ここでは、それぞれがどのようなものなのか解説します。
法人・会社破産とは
法人破産とは、会社が借金などの支払いを継続できない状態(支払不能)や、資産より負債が大きい状態(債務超過)に陥った場合に、裁判所を通じて会社を法的に清算する手続きです。この手続きでは、裁判所によって選任された「破産管財人」が、会社の財産を売却(換価)して債権者への配当にあてます。
すべての資産処理が完了すると破産手続きは終結し、会社の法人格は法律上消滅します。会社という存在がなくなる以上、その会社が負っていた借金も、法的には一緒になくなることになります。なぜなら、そもそも債務は「会社が存在すること」を前提にしているからです。
個人の自己破産とは
個人の自己破産は、債務を返済できなくなった個人(代表者・事業主・会社員など)が、裁判所に申立てて「返済能力がないこと」を認めてもらい、借金の返済義務を免除してもらう手続きです。
個人破産の最大の特徴は、「免責(めんせき)」という仕組みがある点です。裁判所が免責許可を出せば、対象となる借金の返済義務がすべて帳消しとなります。
つまり、個人破産はあくまで「生活の再建」を目的とした制度であり、破産後も個人としての生活が続いていくことを前提としています。
法人・会社破産と個人の自己破産の違い
法人破産と個人破産は、いずれも債務の返済が困難になったときに利用できる法的な救済手段です。ただし、「法人が破産すること」と「人が破産すること」では、制度の目的や仕組みが根本的に異なります。
ここでは、実務上特に重要となる3つの観点から、両者の違いを整理して解説します。
免責制度が適用されるか否か
法人破産と個人破産の大きな違いのひとつが、「免責制度」の有無です。
免責とは、破産手続が終了した後に、裁判所の許可を受けることで、残っている借金の返済義務が法的に免除される制度です。破産の申立てをすれば借金が自動的にゼロになると思われがちですが、実際には免責許可の決定を受けて、はじめて法的に借金から解放されます。
法人破産にはこの免責制度はありません。法人が破産手続を終えると、法人格そのものが消滅し、それに伴って債務も消滅します。債務を負う主体がなくなる以上、借金の返済義務も存在しなくなるためです。
これに対して、個人は破産しても消滅しません。破産後も日々の生活は続きます。働いて収入を得たり、家族を支えたりしながら、社会の中で再び自立していく必要があります。こうした再出発を後押しするために、免責制度があるのです。免責が認められれば、残っている借金の支払い義務は法的に免除され、経済的な再建が可能になります。
ただし、免責には条件があり、ギャンブルや浪費、財産の隠匿などが原因で借金を抱えた場合は、「免責不許可事由」にあたるとして、免責が認められない可能性もあります。
財産処分の対象と範囲
破産においては、債務者が保有する財産を換価(売却)し、債権者への配当に充てるのが原則ですが、その対象範囲にも法人と個人で大きな違いがあります。
法人破産では、会社が持つ資産は原則すべて処分対象です。会社は破産をもって事業を終わらせ、法人格自体が消滅するため、財産を残す必要はありません。
一方、個人破産では、債務者の財産は原則として処分対象ですが、生活に不可欠な最低限の財産については、自由財産として処分を免れることが認められています。たとえば、99万円以下の現金や生活に必要な家財道具、差押え禁止の年金などは保持が可能です。
この違いは、法人が「清算・終了」を目的とするのに対し、個人破産は「生活の再建」を前提として制度設計されていることに由来します。
破産管財人の選任が原則かどうか
破産手続では、債務者が持つ財産の調査や管理、売却(換価)、そして債権者への配当といった重要な業務を、中立的な第三者である「破産管財人」が担うことがあります。この破産管財人が選任されるかどうかは、法人破産と個人破産とで大きく異なります。
まず、法人破産では、原則として必ず破産管財人が選任されます。というのも、法人の財産関係は複雑で、債権者も多数に及ぶことが一般的だからです。たとえば、会社名義の不動産、設備、売掛金、在庫など、多岐にわたる資産を正確に把握し、適切に換価・配分するには、法律や会計の専門知識を持つ第三者の関与が不可欠とされます。
また、過去の取引に違法性や不透明な点がないか、特定の債権者だけが優先的に弁済を受けていないかといった調査も、破産管財人が担います。そのため、法人破産では基本的に例外なく管財人が選ばれ、手続全体を主導します。
一方で、個人破産では、破産者の状況に応じて、破産管財人を選任するかどうかが分かれます。
個人破産には、以下の2つの手続類型があります。
同時廃止事件
破産者にめぼしい財産がなく、債権者に配当する資産も見込めない場合に適用される手続です。破産管財人が選任されず、裁判所の判断だけで手続が完結します。申立から免責までの期間が比較的短く、費用も抑えられるのが特徴です。
管財事件
一定額以上の資産がある場合や、免責不許可事由が疑われる場合(たとえば財産隠し、偏頗弁済など)に適用されます。この場合、破産管財人が選任されて、財産調査や処分、債権者集会の運営などを担います。管財事件は通常、申立から免責までに数か月以上を要し、申立人は裁判所に対して「予納金」(通常20万円以上)を納める必要があります。
このように、法人破産では管財人の選任が原則であるのに対し、個人破産では資産状況や破産原因の内容によって手続が分かれ、柔軟に対応される点も大きな違いです。
法人・会社破産と個人の自己破産を同時に行うメリット・デメリット
会社の経営が立ち行かなくなり、法人としての清算が必要になったとき、代表者個人も会社の連帯保証などを通じて多額の借金を抱えていることは少なくありません。そのような場合、法人破産とあわせて、代表者個人も自己破産を申し立てるかどうかを検討することになります。
ここでは、法人と個人の破産を同時に行う場合の主なメリットとデメリットについて解説します。
法人・会社破産と個人の自己破産を同時に行うメリット
法人・会社破産と個人の自己破産を同時に行うメリットは、主に以下の3つです。
① 経済的・時間的な負担を抑えやすい
法人破産と個人破産は本来、別々の手続として扱われ、それぞれについて裁判所への予納金の納付が必要です。
通常であれば、法人にも個人にもそれぞれ所定の金額が発生しますが、同時に申し立てることで裁判所が一体的に手続を処理するケースが多く、個人破産分については予納金が軽減されることがよくあります。
また、同時申立てを行えば、書類作成や申立手続をまとめて進めることができ、準備にかかる時間や労力を効率よく抑えられます。弁護士費用についても、案件を一括で対応する流れになるため、まとめて見積もってもらえることが多く、結果的にコスト面でも有利になるケースが少なくありません。
② 手続全体の整合性がとれ、説明がしやすい
法人破産と個人破産は、財産関係や債権者リストが重複していることが少なくありません。とくに、代表者個人が会社の連帯保証人になっている場合、同一債務が法人・個人の両方に関係しているケースが多く見られます。
その点、同時に手続きを進めれば、財産目録や債権者一覧表の内容を整合的に作成できるため、破産管財人や裁判所への説明もしやすくなります。
情報が一元的に整理されていれば、偏頗弁済(特定の債権者に対する優遇支払い)などの疑いを回避しやすくなります。
③ 再出発のタイミングを早めやすい
法人破産と個人破産を別々に申し立てると、手続期間が重複して長引いたり、片方の処理が終わらないうちに新たな債務の取り立てが再開されたりするリスクもあります。
しかし、同時に申し立てて一体で進めることで、法人の清算と代表者の免責が並行して進行し、全体としての解決が早まる可能性が高くなります。
借金問題の見通しが早期に立てば、代表者個人としても再スタートの準備を進めやすくなり、生活や事業の再建に前向きに取り組むことができます。
法人・会社破産と個人の自己破産を同時に行うデメリット
法人・会社破産と個人の自己破産を同時に行うデメリットは、主に以下の3つです。
① 一度にまとまった費用を準備する必要がある
法人と個人の破産を同時に申し立てる場合、最初にある程度まとまった金額を準備しなければなりません。裁判所に納める予納金に加えて、弁護士費用も法人・個人それぞれについて発生するのが基本です。
もっとも、実務上は同じ弁護士が同時に対応することで業務が効率化されるため、報酬が一部調整され、トータルコストが割安になるケースもあります。
それでも、準備段階でまとまった費用が必要になる点は、やはり無視できない負担となるでしょう。
② 財産調査の範囲が広がり、説明の負担が増す可能性がある
法人と個人の破産を同時に申し立てた場合、破産管財人は両者の財産状況や資金の流れを一体として調査します。これは、法人の取引に代表者個人が関与していたり、個人の借金に法人が関係していたりと、両者の経済活動が密接に結びついているケースが多いためです。
その結果、帳簿と通帳の内容に矛盾がないか、資金の流れに不自然な点がないかといった整合性が厳しく確認されることになります。特に、法人と個人の口座間で資金の出入りがあったり、過去に不動産や現金を移動した履歴がある場合には、その経緯や正当性について詳しい説明を求められる可能性があります。
調査の対象が広がることで、情報整理や説明対応の負担が増す点は、同時申立てにおける注意点のひとつです。
③ 法人・個人の両面で責任を問われるリスクがある
同時申立ての過程で、仮に資産の隠匿や不透明な取引、特定の債権者への偏った返済などが明らかになった場合、法人・個人の両方に悪影響が及ぶおそれがあります。
とくに、法人破産において代表者の行為に問題があると判断された場合には、代表者の個人破産における免責が認められないリスクもあります。
また、法人と個人の間で資産のやり取りがある場合、それが私的流用や背任とみなされると、破産手続自体が停滞し、手続完了までに時間がかかる可能性も出てきます。
法人・会社破産と個人の自己破産を別々に行うメリット・デメリット
法人と代表者個人の破産を「同時」に申し立てる方法がある一方で、それぞれの状況に応じて「別々のタイミングで破産手続を行う」という選択肢もあります。とくに、まずは個人の破産手続のみを先行させ、法人破産は見送る、あるいは時期をずらして検討するケースも珍しくありません。
ここでは、法人と個人の破産を別々に行う場合の主なメリットとデメリットについて解説します。
法人・会社破産と個人の自己破産を別々に行うメリット
法人・会社破産と個人の自己破産を別々に行うメリットは、主に以下の2つです。
① 初期の費用負担を抑えやすい
法人と個人の両方を同時に破産させるとなると、通常は双方に対して弁護士報酬や予納金が発生します。
それに対して、まず代表者個人の破産だけを申し立てるのであれば、法人分の費用はかからず、必要最小限の費用で手続きを進めることができます。
経済的に厳しい局面で破産を検討するケースが多いため、「今すぐ法人分までまとめて申し立てる余裕はない」という場合には、個人破産だけを優先的に進めることで当面の債務整理が可能になります。
② スケジュールを柔軟に組みやすい
同時申立てでは、法人破産のタイミングにあわせて、個人破産の準備も同時並行で行う必要があります。
そのため、代表者個人にとっては、法人側の状況に振り回されて申立準備がタイトになることも少なくありません。
一方で、法人と個人を別々に申し立てる場合は、それぞれのタイミングで手続きを進めることができるため、個人破産についても余裕をもって準備ができます。
「法人は今は清算しないが、個人の債務整理だけは先に進めたい」という場合に、柔軟に対応できるのが大きな利点です。
法人・会社破産と個人の自己破産を別々に行うデメリット
法人・会社破産と個人の自己破産を別々に行うデメリットは、主に以下の2つです。
① 法人に代表者が不在となるリスクがある
代表者個人の破産手続が先に開始されると、裁判所の破産開始決定によって会社との委任関係が終了します。つまり、会社に代表権を持つ人がいなくなってしまい、事実上、法人が「機能停止状態」に陥る可能性があります。
このような状態になると、法人の債務整理が進まず、債権者が債権を回収できないだけでなく、税務上の損金処理も困難になるなど、周囲にも不都合が生じるおそれがあります。
② 裁判所が別々の申立てを認めない場合もある
法人と個人の破産は、原則として別々の制度ですので、手続を分けて申し立てることは理論上可能です。しかし、実務上は、代表者個人の財産と法人財産の混同や、債権債務の関係が密接に絡み合っているケースが少なくありません。
そのため、裁判所や破産管財人が「法人と個人の財産関係をあわせて調査する必要がある」と判断した場合、手続を分けて進めることが認められないケースもあります。
結果的に、別々に進めるつもりで準備していたにもかかわらず、実務上は同時申立ての方針に変更せざるを得なくなる可能性もある点には注意が必要です。
個人の自己破産をした場合の破産後の変化
自己破産をすると、「今後の生活が制限されるのでは」と不安になる方も多いかもしれません。
たしかに、破産にはいくつかの制約がありますが、免責が認められれば、生活そのものに大きな支障が出るわけではありません。
ここでは、個人の破産後の暮らしについてお伝えします。
財産をすべて失うわけではない
自己破産をすると、原則として高額な資産(自宅や価値のある車など)は処分されますが、生活に必要な家財や99万円以下の現金などは「自由財産」として手元に残されます。
古い車や長年使っている家具・家電などは、財産価値がないと判断されて残ることも多く、生活の基盤がゼロになるわけではありません。
クレジットやローンは当面使えなくなる
自己破産をすると、信用情報機関に「事故情報(いわゆるブラックリスト)」として登録されます。そのため、おおむね5〜10年の間はクレジットカードや各種ローンの利用が難しくなります。
しかし、近年はデビットカードやプリペイド型の電子マネーが広く普及しており、ネットショッピングや店舗での支払いであればほとんど問題なく行えます。
一方で、高額な買い物を分割で行いたい場合や、急な出費への備えが必要な場合には不便さを感じることもあるため、しばらくは計画的な家計管理が重要となるでしょう。
就労や社会生活への影響は限定的
手続中は一部の士業や保険関連の資格に制限がかかることがありますが、免責が確定すれば解除されます。
多くの職業では問題なく働き続けられますし、就職・転職活動にも直接的な影響は基本的にありません。
選挙権がなくなる、戸籍に記録される、といった心配も不要です。
周囲に知られるリスクはごく小さい
破産の事実は官報に掲載されますが、官報を日常的に見る人は多くありません。
住民票や戸籍などに記載されることもなく、家族や職場、友人に知られるケースは稀です。
事情によっては、家族に知らせずに手続きを進めることも可能です。