交通事故の時効はいつまで?請求できる期限と「時効を止める方法」を弁護士が解説
交通事故の被害に遭ったとき、加害者に治療費や慰謝料を請求できる権利には期限があります。これを「消滅時効」といい、必要な手続きをとらないまま期限を過ぎると、本来受け取れるはずだった賠償金を受け取れなくなる可能性があります。
しかも、期限は「事故から一律○年」と決まっているわけではありません。車の修理代なのか、ケガの治療費なのか、後遺障害が残ったのかによって、期間も、数え始める日も変わります。さらに、加害者側への請求と、自賠責保険への請求では、別々の期限が進んでいます。
この記事では、交通事故の時効が何年なのか、いつから数えるのか、期限が迫ったときにどのような手続きをとればよいのかを解説します。
1.交通事故の損害賠償請求には「時効」がある
「相手方の任意保険会社と話がまとまらないまま、気づけば数年が経っていた」というケースは珍しくありません。しかし、放置していると、賠償金を請求する権利は、時効により消滅する可能性があります。
時効とは「長期間使わなかった権利が消滅する」仕組み
時効とは、権利を持っている人が、その権利を長期間行使しなかった場合に、一定の要件のもとで権利を消滅させる制度です。
法律がこのような仕組みを設けているのは、長期間が経過した出来事について請求を認めると、証拠が失われ、事実関係を正確に確認することが難しくなるためです。また、「もう請求されないだろう」と考えていた相手方の立場が、いつまでも不安定なまま残ることも避ける必要があります。
交通事故による賠償請求は、法律上、「不法行為に基づく損害賠償請求」にあたります。不法行為とは、故意または過失によって他人に損害を与える行為のことです。交通事故の時効については、主に民法724条と724条の2に定めがあります。
時効が完成して援用されると、請求が認められなくなる
時効期間が満了することを「時効が完成する」といいます。
ただし、時効期間が過ぎただけで、裁判所が自動的に時効を適用するわけではありません。加害者側が「時効が完成しているので支払わない」と主張する必要があります。この主張を、法律では「時効の援用」といいます。
「治療に専念していた」「保険会社との交渉が長引いていた」といった事情があっても、それだけで当然に期限が延びるわけではありません。
2.交通事故の時効は何年?ケース別の期限一覧
交通事故の時効期間は、「何が損なわれたか」によって異なります。
2020年4月1日に施行された改正民法では、人の生命や身体が害された場合の損害賠償請求権について、被害者保護の観点から、物損よりも長い時効期間が定められました。まずは、主な期限を表で確認しましょう。
| 請求の内容・相手 | 時効期間 | カウントを始める日(起算点) |
|---|---|---|
| 物損 (車の修理代・代車費用など) | 3年 | 損害と加害者を知った時。通常は事故日 |
| 人身 (治療費・休業損害・入通院慰謝料など) | 5年 | 損害と加害者を知った時。通常は事故日 |
| 後遺障害に関する損害 (後遺障害慰謝料・逸失利益など) | 5年 | 原則として症状固定日 |
| 死亡によって生じる損害 (死亡慰謝料・死亡逸失利益・葬儀費用など) | 5年 | 原則として死亡日 |
| 加害者が分からない場合の 加害者側への請求 | 加害者判明後、物損は3年、人身は5年 | 加害者を知った時 |
| 不法行為の時からの期間 | 原則20年 | 事故の日 |
| 自賠責保険への被害者請求 | 3年 | 傷害は事故日、後遺障害は症状固定日、死亡は死亡日 |
| 政府保障事業への請求 | 3年 | 傷害は事故日、後遺障害は症状固定日、死亡は死亡日 |
物損は3年、人身損害は5年
車の修理費、評価損、代車費用などの物損は、損害と加害者を知った時から3年です。
一方、治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料など、人の生命や身体が害されたことによる損害は、損害と加害者を知った時から5年です。
物損の方が2年短いため、ケガの治療や示談交渉を続けているうちに、車の修理代などだけ先に時効が完成することがあります。
自賠責保険への請求は「別枠」で3年
被害者は、加害者側への損害賠償請求とは別に、加害車両が加入する自賠責保険会社へ直接請求できる場合があります。これを「被害者請求」といいます。
被害者請求の時効は3年です。加害者側への人身損害の請求は5年でも、自賠責保険への3年の期限が先に来ることがあります。
加害者側への請求と自賠責保険への請求は別の権利です。一方の時効を止めても、当然にもう一方まで止まるわけではありません。
ひき逃げなど、加害者が分からない場合
加害者が分からない間は、原則として、加害者本人への請求権の時効は進みません。加害者が判明した時から、物損は3年、人身損害は5年です。
もっとも、加害者を知らないままでも、原則として事故から20年が経過すると時効が完成します。
加害者が不明な場合や、加害車両に自賠責保険が付いていない場合には、国の「政府保障事業」を利用できることがあります。こちらの請求期限は3年です。
3.時効はいつから数える?「起算点」の考え方
時効のカウントを始める日を「起算点」といいます。交通事故では、一つの事故から生じた損害であっても、損害の内容によって起算点が異なることがあります。
ケガの治療費・休業損害・入通院慰謝料は「事故日」から
交通事故で負傷し、加害者が誰かも分かっている場合には、通常、事故が起きた時点で「損害および加害者を知った」と考えられます。
そのため、治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料など、事故による傷害そのものから生じる損害については、原則として事故日から5年です。
もっとも、事故直後には予想できなかった損害が後になって判明した場合など、具体的な事情によっては起算点が争いになることがあります。
後遺障害に関する損害は「症状固定日」から
治療を続けても、これ以上の改善が見込めない状態を「症状固定」といいます。
後遺障害慰謝料や逸失利益は、症状固定によって初めて損害の内容が明らかになるのが一般的なため、原則として症状固定日から5年です。
後遺障害等級の認定結果を待っていても、時効の進行が当然に止まるわけではありません。自賠責保険への後遺障害分の被害者請求も、原則として症状固定日から3年です。
死亡によって生じる損害は原則として死亡日から
死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費用など、死亡によって生じる損害は、原則として死亡日から5年です。
ただし、死亡前に発生していた治療費、休業損害、入通院慰謝料などは、死亡日とは別の起算点が問題になることがあります。
4.時効が迫っている・過ぎたらどうなる?
「もう期限を過ぎているかもしれない」と思っても、すぐに諦める必要はありません。起算点の計算が違っていたり、途中で時効の完成猶予や更新が生じていたりする可能性があります。
時効が完成して援用されると、原則として請求できない
時効期間が過ぎただけで、裁判所が自動的に時効を適用するわけではありません。加害者側が「時効が完成しているので支払わない」と主張する必要があります。これを「時効の援用」といいます。
時効が完成し、相手方に援用されると、原則として、裁判を起こしても損害賠償請求は認められません。
反対に、時効期間が過ぎていても、相手方が時効を援用せず、任意に支払いに応じる余地はあります。もっとも、相手方が任意保険会社である場合には、時効が厳格に管理されているのが通常です。援用されないことに期待して放置するのは危険です。
時効完成後に相手方が支払いを認めた場合
時効完成後に、加害者側が賠償金の一部を支払ったり、分割払いを約束したりした場合、その後の時効援用が認められないことがあります。
ただし、相手方が何らかの発言をしただけで、直ちに時効を援用できなくなるわけではありません。発言や支払いの内容、これまでの交渉経緯など、具体的な事情によって判断されます。
諦める前に確認したいポイント
時効が過ぎているように見える場合でも、まずは次の点を確認してください。
- 後遺障害に関する損害を、事故日ではなく症状固定日から計算しているか
- 人身損害の5年と、物損の3年を混同していないか
- 過去に内容証明郵便による催告や、訴訟・調停などを行っていないか
- 相手方が賠償義務を認めたり、一部を支払ったりしていないか
- 書面やメールで、協議を続ける旨の合意をしていないか
これらの事情があると、時効の完成時期が変わったり、相手方による時効の援用が認められなかったりする可能性があります。期限を過ぎたと思っても、ご自身だけで判断せず、弁護士に確認することが大切です。
5.交通事故の時効を止める(完成猶予・更新)方法
現在の民法では、時効の完成を一定期間先送りすることを「完成猶予」、それまでの期間をリセットして新たに数え直すことを「更新」といいます。
一般には「時効を止める」「時効を中断する」と表現されますが、手続きによって効果は異なります。
内容証明郵便による催告
加害者に支払いを求める「催告」をすると、その時から6か月間、時効の完成が猶予されます。証拠を残すため、内容証明郵便を利用するのが一般的です。
ただし、6か月以内に訴訟提起などの次の手続きをとらなければ、時効の完成を防げません。また、猶予中にもう一度催告しても、6か月をさらに延ばすことはできません。
裁判上の請求
訴訟を提起すると、手続きが続いている間は時効の完成が猶予されます。勝訴判決が確定するなどして権利が確定すると、時効は更新され、原則としてそこから新たに10年となります。
民事調停や支払督促にも、一定の要件のもとで同様の効果があります。ただし、訴えを取り下げた場合などには、通常、更新の効果は生じません。
相手方による承認
加害者が賠償義務を認める「承認」があると、時効は更新されます。賠償金の一部を支払う、支払いを待ってほしいと申し入れるなどが典型です。
ただし、任意保険会社が治療費を支払う「一括対応」が、加害者本人による承認にあたるかは、具体的な事情によります。「治療費が支払われているから時効は進んでいない」と考えるのは危険です。
協議を行う旨の合意
当事者間で、協議を行う旨を、書面またはメールなどの電磁的記録で合意すると、原則として1年間、時効の完成が猶予されます。
合意は更新できますが、最初の合意から通算して5年が上限です。単に口頭で「話し合いを続けましょう」と確認するだけでは足りません。
自賠責保険への時効更新の手続き
自賠責保険への被害者請求については、一般に「時効中断申請」などと呼ばれる手続きがあります。
必要書類や取扱いは保険会社・共済によって異なる場合があるため、期限に余裕を持って確認してください。
なお、自賠責保険について手続きをしても、加害者側に対する損害賠償請求権の時効には影響しません。
示談交渉中でも時効は進む
示談交渉が続いているだけでは、当然に時効が止まるわけではありません。任意保険会社から「検討中」と言われている場合や、後遺障害等級認定の結果を待っている場合も同じです。
期限が近いときは、完成猶予や更新の効果が生じる正式な手続きをとる必要があります。
6.時効を確実に止めるなら弁護士へ相談を
交通事故の時効は、物損・人身・後遺障害・死亡で期間や起算点が異なります。さらに、加害者側への請求と自賠責保険への請求では、別々の期限を管理しなければなりません。
相談は早いほど選択肢が広がる
弁護士への相談は、事故後できるだけ早い段階で行うのが理想です。
すでに期限が迫っている場合でも、催告によって6か月の完成猶予を確保し、その間に訴訟の準備を進められることがあります。「もう過ぎているかもしれない」という場合も、起算点や交渉経緯を見直すことで、まだ請求できると分かる可能性があります。
弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼すれば、物損、人身損害、後遺障害、自賠責保険など、それぞれの期限と起算点を整理できます。
また、催告、訴訟、協議を行う旨の合意、自賠責保険への手続きなどから、状況に合った方法を選べます。時効の管理だけでなく、損害額や過失割合についても交渉を任せられる点もメリットです。
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7.よくある質問
最後に、交通事故の時効についてよくある質問にお答えします。
交通事故の時効は事故日から何年ですか?
治療費、休業損害、入通院慰謝料などの人身損害は、通常、事故日から5年です。車の修理代などの物損は3年です。
ただし、後遺障害に関する損害は原則として症状固定日から5年、死亡によって生じる損害は原則として死亡日から5年です。自賠責保険への被害者請求は、これとは別に3年です。
交通事故の時効が過ぎてしまった場合、もう損害賠償は請求できませんか?
必ずしもそうとは限りません。相手方が時効を援用していない場合や、起算点の計算が違っていた場合、途中で時効の完成猶予・更新が生じていた場合があります。
また、時効完成後に相手方が賠償金の一部を支払うなどした場合、その後の時効援用が認められないこともあります。諦める前に弁護士へ確認してください。
交通事故の時効を止めるにはどうすればよいですか?
主な方法は、①内容証明郵便などによる催告、②訴訟・調停・支払督促などの裁判上の手続き、③相手方による承認、④書面などによる協議を行う旨の合意です。
自賠責保険への請求については、これらとは別に時効更新の手続きがあります。ただし、自賠責保険について手続きをしても、加害者側への請求の時効には影響しません。
